第10回 職場のストレス
産業・組織心理学(’20)
Industrial and Organizational Psychology (’20)
主任講師名:山口 裕幸(九州大学教授)
【講義概要】
産業・組織心理学は、①組織に所属する人々の行動の特性やその背後にある心理、あるいは人々が組織を形成し、組織としてまとまって行動するときの特性について研究する「組織行動」の領域、②組織経営の鍵を握る人事評価や人事処遇、あるいは人材育成について研究する「人的資源管理」の領域、③働く人々の安全と心身両面の健康を保全し、促進するための方略について研究する「安全衛生」の領域、そして、④よりすぐれたマーケティング戦略に生かすべく消費者心理や宣伝・広告の効果を研究する「消費者行動」の領域からなる。本講義は、それらを全体として統合しつつ、産業・組織心理学の理論と知見を体系的に解説する。
【授業の目標】
①組織における人間行動の特徴とともに、組織体全体に発生する現象の諸特性について理解し、概説できる。
②人材の育成や開発のために必要となる人的資源管理のあり方について理解し、概説できる。
②職場で発生する安全衛生の問題に対して、その解決のための行動や心理学的支援の方法について理解し、概説できる。
④消費者の意思決定や行動の特性ならびに、効果的な宣伝やマーケティングのための心理学的知識について理解し、概説できる。
【履修上の留意点】
本科目を履修する前に「心理学概論(’18)」を履修することが望ましい。また、「社会・集団・家族心理学(’20)」と関連が深い。
※この科目は、心理と教育コース開設科目ですが、社会と産業コースで共用科目となっています。
第10回 職場のストレス
職場で働く際に経験する疲労やストレスをテーマに取り上げ、人が健康に働くために必要な条件や働き方の改善に求められることについて考える。
【キーワード】
疲労、ワークロード、ストレス、ソーシャルサポート、ストレスチェック、ワーク・ライフ・バランス
ワークロード 作業負荷の評価には第9回 仕事の能率と安全
過労死、うつ 労災
アメリカの心理学者リチャード・S・ラザルス氏。
変化で生まれるストレスにどう対応したらよいか
ストレスコーピングとは? ラザルスの理論を手っ取り早く解説してみた
次の①~④の選択肢の中から,職場ストレスの理論に関する説明として,誤っているものを一つ選びなさい。
選択してください:
① 職務ストレスモデル(Cooper & Marshall)は,職場で遭遇するさまざまなストレッサーを網羅的に整理している。
② 職務要求度-コントロールモデル(Karasek)によると,職務の要求度が高く,裁量度も高い場合に,ストレスが最も高くなる。
③ 職業性ストレスモデル(Hurrell & McLaney)では,上司,同僚,家族から提供されるソーシャルサポートが,ストレッサーの効果を低減する緩衝要因として位置づけられている。
④ 努力-報酬不均衡モデル(Siegrist)によれば,職務遂行に費やされる努力に対して,結果として得られる報酬が不足した場合に,高いストレス反応が生じる。 不正解です。
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正解は②です。
【解説/コメント】
①この記述内容は正しいです。職務ストレスモデルでは,職場で遭遇する様々なストレッサーが整理されるとともに,それらとストレス反応や疾病の因果関係が示されています。
②正解です。よく理解されています。この記述内容は間違っています。職務要求度-コントロールモデルでは,職務の要求度が高くとも,高い裁量度が与えられていれば,能動的な職務となることが示されています。
③この記述内容は正しいです。職業性ストレスモデルでは,ストレッサーとストレス反応関係を調整する緩衝要因として,ソーシャルサポートが位置づけられています。
④この記述内容は正しいです。努力-報酬均衡モデルでは,費やされた高い努力(仕事の質・量・時間)に対して,報酬(給料,尊重など)が低い場合に,ストレス反応が生じると説明されます。
印刷教材の第 10 章(放送授業の第 10 回)を参照して,理解を深めてください。
次の①~④の選択肢の中から,ストレスへの対処に関する説明として,誤っているものを一つ選びなさい。
① ストレッサーによって生じる不快な情動を処理する対処行動を,情動焦点型のコーピングと呼ぶ。
② 職場内外の人間関係から得られるソーシャルサポートは,ストレスへ対処するための重要な資源となる。
③ どのようなストレッサーや問題状況に対しても,自分が活用する対処行動は常に一貫させておくことが重要である。 正解です。
④ ストレスに関連する心身の徴候の異常を早期に発見・対処するために,定期的なストレスチェックを行うことが有効である。
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正解は③です。
【解説/コメント】
①この記述内容は正しいです。ストレッサーを除去・低減するために直接的な努力をする対処行動を「問題焦点型コーピング」,不快な情動の処理に焦点をおく対処行動を「情動焦点型コーピング」と呼びます。
②この記述内容は正しいです。職場内の上司・同僚,職場外の家族や友人から得られるソーシャルサポートは,ストレスへ対処するための資源になると考えられています。
③正解です。よく理解されています。この記述内容は間違っています。ストレッサーの種類や状況に応じて,多彩なコーピングを組み合わせたり,柔軟に使い分けた方が,精神健康を保つには有効です。
④この記述内容は正しいです。ストレス反応の長期化は疾病につながる恐れがあるため,早期の発見・対処が重要です。ストレスチェックのための定評の高い調査票が開発され,広く普及しています。
印刷教材の第 10 章(放送授業の第 10 回)を参照して,理解を深めてください。