精神疾患とその治療(’20)
Understanding and Treating Mental Disorders (’20)
主任講師名:石丸 昌彦(放送大学教授)
【講義概要】
精神医学の診断や治療の基本的な考え方を展望し、代表的な精神疾患の症状・経過・治療などについて解説するとともに、関連法規や社会制度の概略を紹介する。
【授業の目標】
精神疾患にはどのようなものがあり、それぞれどのような特徴をもっているか、疾患をどのように診断し治療するのか、治療法にはどのようなものがあるか、精神疾患の当事者をとりまく社会制度や援助のための社会資源はどのような現状にあるか、このような基本的な知識・理解を獲得することを目的とする。昨今の当事者活動の盛りあがりや、多職種連携の必要性についても十分理解したい。
【履修上の留意点】
医学一般について関心をもち、心身の健康について幅広く理解する姿勢が望まれる。
「今日のメンタルヘルス」や「精神看護学」、心理学領域の関連科目などを履修することを推奨する。この科目を履修した後に、大学院科目「精神医学特論」などに進んでいくことが望ましい。
※この科目は、生活と福祉コース開設科目ですが、心理と教育コースで共用科目となっています。
※本科目は実務経験のある教員による授業科目です。
第1回 精神疾患と精神医学
1.精神疾患と精神医学
2.統計から見た現状
3.精神医学とその周辺
第1回 精神疾患と精神医学
1.精神疾患と精神医学
(1)精神医学とは何か
精神疾患の診断・治療・予防ならびにそのための研究を目的とする医学の一分野である。
WHOは、健康の定義として
社会的存在としての人間に注目するところに特徴がある。
(2)精神疾患の特徴と多様性
精神の変調は感情や思考など人の内心の活動を舞台とする。
アニミズム:あらゆる現象の背後に霊(アニマ:anima)の存在と働きを想定する考え方「狐憑き」など
量的な異常:気分が浮き沈み気力の低下する抑うつ状態や、逆に気分が抑揚し誇大的となる躁状態
質的な異常:統合失調などに見られる幻覚や妄想
(3)正常(健康)と異常(病気)の境界
精神や行動のあり方を数値化することは困難なことが多く、仮に可能であったとしてもどこに境界線を引くかという難問は最後まで残る
2.統計から見た現状
(1)精神疾患の動向
「精神及び行動の障害」は、成人病・生活習慣病と歩調をあわせるように増加してきた。
精神科などの診療所(クリニック)も急速に増加していることに注意したい。
接触障害やPTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)など、かつては病気として認知されなかったものに注意が向けられている。
WHOの考案したDALY(Disability-Adjiusted Life Year:障害調整生命年)と呼ばれる指標は、疾患による寿命の短縮とあわせ、その疾患によって生じた生活の質の低下を失われた時間として定量化するのである。精神疾患が最上位に位置している。
(3)自殺の問題
1998年に突如3万人台に跳ね上がり、15年間にわたって続いた。
心理学的剖検法:心理学的剖検とは、自殺者遺族へのケアを前提として、自殺者の遺族や故人をよく知る人から故人の生前の状況を詳しく聞き取り、自殺が起こった原因や動機を明らかにしていくことです。・・・・自殺既遂者のほとんどが死の直前に何らかの精神的変調をきたしている。
見過ごされているかどうか知りませんが、日本の若い世代の死因について。
・追記
3.精神医学とその周辺
(1)精神医学と臨床心理学
「精神療法」と「心理療法」は「サイコセラピー:psychotherapy」の訳語である。
(2)用語や呼称に関する注記
a.医療機関の標榜科名
b.「疾患」と「障害」
c.精神疾患は「心の病」か?
・精神疾患を心理学的な危機と見るか・脳の機能変調とみるか、精神医学史上の大問題にも通じるものと言えよう。
用語:愁訴 (しゅうそ)・・・・・患者の自覚的訴えのこと。その中心的なものを主訴といいます。明確な器質的疾患がないのに、さまざまな自覚症状を訴える状態を不定愁訴ということがありますが、好ましい用語ではありません。
各回のテーマと授業内容
第1回 精神疾患と精神医学
精神疾患とはどのようなものであるかを、身体疾患と比較しながら学ぶ。精神医学の意義や特徴について理解し、臨床心理学との関連について考える。また、統計データを通じて精神疾患や自殺の最近の動向を展望する。
【キーワード】
精神医学、精神疾患、自殺、臨床心理学、心の臨床
執筆担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授)
放送担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授) |
第2回 精神疾患の診断と診断基準
精神疾患の診断の手順と、その際に用いられる診断基準について、今日の代表的な操作的診断基準であるDSMとICDを中心に学ぶ。診断は一方的に宣告するものではなく、SDMの考え方に従って共有すべきものであることを理解する。
【キーワード】
操作的診断基準、DSM、ICD、外因・心因・内因、SDM
執筆担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授)
放送担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授) |
第3回 精神疾患の治療
精神疾患の治療のあり方について基本的な考え方を学ぶ。特に薬物療法と精神療法という二本の柱に注目し、それぞれの療法の目的・有用性・有害作用・限界について知る。薬物療法と精神療法の相補的な関係や多職種連携の意義についても理解しておきたい。
【キーワード】
薬物療法、向精神薬、プラセボ効果、精神療法、認知行動療法
執筆担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授)
放送担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授) |
第4回 統合失調症
入院患者の中では最多を占め、幻聴や被害妄想などの陽性症状や、自発性の低下などの陰性症状を呈しつつ進行する統合失調症について、症状・経過・治療などを学ぶ。ドーパミン仮説などの成因論や、近年注目されている当事者活動にも触れる。
【キーワード】
統合失調症、陽性症状と陰性症状、抗精神病薬、ドーパミン仮説、当事者活動
執筆担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授)
放送担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授) |
第5回 うつ病と双極性障害
今日の代表的な精神疾患である気分の障害、すなわちうつ病と双極性障害について、その症状・経過・診断・治療について学ぶ。両者の異同について正しく理解したうえで、抗うつ薬や気分安定薬などによる薬物療法の概略と治療原則を知る。
【キーワード】
うつ病、双極性障害、抗うつ薬、気分安定薬、心理教育
執筆担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授)
放送担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授) |
第6回 「うつ」をめぐるさまざまな話題
うつ病の理論と実践に関わるさまざまな話題、すなわち、うつ病概念の変遷とDSMの影響、うつ病の多様性と「新型」あるいは「現代型」の問題、精神療法のあり方、睡眠の重要性、抗うつ薬の多面的な効用などについて論じる。
【キーワード】
うつ病の多様性、適応障害、うつ病の小精神療法、睡眠衛生指導、常用量依存
執筆担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授)
放送担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授) |
第7回 不安障害と強迫性障害
以前は神経症と呼ばれていた多彩な疾患群は、不安や恐怖を中心的なテーマとするものである。その中から不安障害(パニック障害、全般性不安障害)と強迫性障害をとりあげ、概念・症状・経過・治療について学ぶ。
【キーワード】
不安、恐怖、神経症、パニック障害、全般性不安障害、強迫性障害
執筆担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授)
放送担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授) |
第8回 ストレスとストレス関連障害
ストレス概念は、現代人のメンタルヘルスを考えるうえでとりわけ重要である。強いストレスをもたらすできごとによる精神の変調として、適応障害、急性ストレス障害、心的外傷後ストレス障害、解離性障害、転換性障害などをとりあげ、その症状・経過・治療について学ぶ。
【キーワード】
適応障害、ストレス障害、PTSD、解離性障害、転換性障害
執筆担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授)
放送担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授) |
第9回 身体疾患と精神疾患
精神医学における心身相関現象に注目し、双方向的に検討する。身体疾患に起因する精神疾患の例として症状精神疾患や器質性精神疾患について学ぶ。また、心理社会的要因に影響される身体疾患の病態、すなわち心身症について学ぶ。
【キーワード】
器質性精神障害、症状性精神障害、てんかん、心身症、ライフイベント・ストレス
執筆担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授)
放送担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授) |
第10回 アルコールと薬物
わが国におけるアルコール関連問題の現状を知るとともに、アルコール依存症の症状・経過・治療について学び、断酒会活動の意義について理解する。また、覚醒剤のもたらす精神症状とその危険について学ぶ。
【キーワード】
アルコール関連問題、アルコール依存症、心理的依存と身体的依存、断酒会、覚醒剤、行為依存
執筆担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授)
放送担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授) |
第11回 発達障害
発達障害の概念を理解し、自閉スペクトラム症やADHDなど主な発達障害の特徴と療育の原則を学ぶ。また発達期の諸問題に対する対応の原則を学ぶ。
【キーワード】
発達障害、環境調整、社会的障壁、自閉スペクトラム症、ADHD、共同作業、成功体験
執筆担当講師名:広瀬 宏之(横須賀市療育相談センター所長)
放送担当講師名:広瀬 宏之(横須賀市療育相談センター所長) |
第12回 摂食障害とパーソナリティ障害
思春期・青年期に関連の深い精神疾患である摂食障害(神経性やせ症、神経性過食症、過食性障害)について学ぶ。また、パーソナリティ障害についてDSMの分類に沿って学び、境界性パーソナリティ障害などの概要を理解する。
【キーワード】
摂食障害、神経性やせ症、神経性過食症、パーソナリティ、境界性パーソナリティ障害
執筆担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授)
放送担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授) |
第13回 老年期と精神疾患
老年期の精神疾患について認知症を中心に学ぶ。アルツハイマー型、前頭側頭型、レビー小体型など各種認知症の特徴を知るとともに、随伴症状とその対応原則を理解する。
【キーワード】
認知症、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症、前頭側頭認知症、せん妄、うつ病
執筆担当講師名:白石 弘巳(なでしこメンタルクリニック院長、東洋大学名誉教授)
放送担当講師名:白石 弘巳(なでしこメンタルクリニック院長、東洋大学名誉教授) |
第14回 精神疾患をとりまく法と制度
精神疾患をとりまく法制度や社会資源について学ぶ。精神保健福祉法の沿革と内容、非自発的入院を含む入院手続き、障害者総合支援法、医療観察法、成年後見制度などについて学び、歴史的経緯と将来に向けての課題を検討する。
【キーワード】
精神保健福祉法、非自発的入院、障害者総合支援法、医療観察法、成年後見制度
執筆担当講師名:白石 弘巳(なでしこメンタルクリニック院長、東洋大学名誉教授)
放送担当講師名:白石 弘巳(なでしこメンタルクリニック院長、東洋大学名誉教授) |
第15回 精神医学の過去・現在・未来
わが国と世界における精神医学の歴史を展望し、学習のまとめとする。科学技術は飛躍的に発展したが、精神医学は未解決の難問を多く抱えている。とりわけ精神障害者に対する人道的処遇の歴史は浅く、スティグマ克服が今後の課題であることを銘記したい。
【キーワード】
アニミズム、科学的精神医学、身体主義と心理主義、スティグマ、ケネディ教書
執筆担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授)
放送担当講師名:石丸 昌彦(放送大学教授) |
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