第1回 中高年の人々はどういう時代を生きてきたのか

第1回 中高年の人々はどういう時代を生きてきたのか
-生涯発達的視座からみた心理臨床的課題-

中高年者が生きてきた時代背景をふまえた上で、中高年がこれから生きていく時代を展望し、彼らに対する心理臨床的視点の有用性について論じる。

【キーワード】
社会変動、生涯発達、コホート、高齢化、ライフコースの多様化


1.中高年の定義

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」高年齢者雇用安定法

45歳以上を中高年、65歳以上を高齢者と定義されているので、中高年は45歳以上65歳未満となる。

高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~
高年齢者雇用安定法改正の概要

2.中高年者が歩んできた人生の社会的背景

「1億総中流」は過去のもの

共働き世代が増える

人口減少社会

3.ライフサイクルからライフコースへ

年代別平均的ライフサイクル

一般的なライフサイクルとしては、以下のようなものがあります。

10代

  • 学校や趣味に集中する時期。
  • アイデンティティを確立するために、自分自身と向き合い始める時期。

20代

  • 大学や就職活動、キャリアの構築など、自分自身を確立する時期。
  • 結婚や家庭の形成、親の介護など、大きなライフイベントに直面することもある。

30代

  • 仕事や家庭、社会的な責任を負う時期。
  • 子育てや家庭の安定、キャリアアップなど、自己実現のための活動をする時期。

40代

  • 人生の折り返し地点。
  • 職場での地位の安定化や、子育てが落ち着いたことで自分自身の時間を持てるようになる時期。

50代

  • 経済的な安定や定年退職、子供の独立など、人生の節目を迎える時期。
  • 自分自身の人生について考え、新しい趣味や挑戦をすることも多い。

60代以降

  • 健康管理が重要な時期。
  • 趣味や旅行、孫の世話など、自分自身が楽しめることに時間を費やすことが多くなる。
  • 社会的にも、ボランティア活動や地域活動など、貢献することができる場が増える。
ライフコースの多様性

ライフコースの多様性とは、人生の進路や経験が個人ごとに異なることを指します。これは、社会的、文化的、経済的な要因、個人の意思決定やライフスタイル、健康状態などの要因によって影響を受けます。

例えば、結婚や子育て、キャリアの選択、リタイアメントの時期などは、個人の価値観や環境によって大きく異なります。また、家族構成や職業の種類、性別、年齢、民族的背景などによっても、人生の進路や経験が異なることがあります。

近年、多様なライフコースの出現が注目されています。たとえば、女性がキャリアを追求し、遅くとも30代半ば以降に子育てを始める場合が増えています。また、定年後に再就職する人や、自営業を始める人、海外に移住する人など、従来と異なる選択をする人も増えています。

これらの多様なライフコースは、社会や経済に大きな影響を与えることがあります。たとえば、女性がキャリアを追求することで、女性の就業率が上昇し、経済活動に貢献することができます。また、高齢者が再就職することで、社会保障財源を増やすことができるかもしれません。

このように、ライフコースの多様性は、社会や個人にとって様々なチャンスや課題をもたらすことがあります。

4.社会変動と個人の発達

(1)生涯発達の規程要因
バルテス
「標準年齢的要因」、「標準歴史的要因」、「非標準的要因」

バルテスという言葉は、文化人類学者のジェラール・バルテスに由来します。彼は、文化現象を分析する上で、以下の3つの要因を考慮することを提唱しました。

  1. 標準年齢的要因(Chronological age factors) これは、文化現象を理解するために必要な年齢に関する要因です。たとえば、ある文化の祭りに参加するためには、特定の年齢に達している必要がある場合があります。このような年齢的な要因は、その文化内で一般的に受け入れられている慣習や規範に基づいています。
  2. 標準歴史的要因(Historical factors) これは、文化現象を理解するために必要な歴史的な要因です。たとえば、ある祭りの起源や歴史的な背景に関する知識は、その祭りを理解するために必要です。また、歴史的な出来事や変化は、文化現象に影響を与えることがあります。
  3. 非標準的要因(Non-standard factors) これは、文化現象を理解するために必要な、標準的な要因以外の要因です。たとえば、ある文化における個人的な経験や、文化的な変化の速度などが含まれます。このような要因は、文化的な多様性を理解するために重要です。

コホート

コホート(cohort)とは、一定期間内に生まれた、あるいは共通の経験を共有するグループのことを指します。この用語は、社会学、統計学、医学、教育学、マーケティングなどの分野で用いられます。

例えば、教育学の分野では、同じ年齢の学生が集まって1つのクラスを形成することがあります。このクラスは、その学年のコホートと見なされます。このように、共通の特徴を持つグループを指すために「コホート」という用語が使われることがあります。

また、マーケティングの分野では、ある商品やサービスを購入した顧客を、購入した時期やその他の共通の特徴に基づいてグループ化し、コホート分析を行うことがあります。これによって、それぞれのコホートの特性や傾向を分析し、効果的なマーケティング戦略を立てることができます。

(2)社会変動と個人、家族のあり方との相互関係
(3)社会変動の中を生きる中高年者への心理臨床的支援の有用性


・社会変動は我々の人生にどのような影響をもたらしてきただろうか。ITやグローバル化、ジェンダー役割のボーダーレス化等の現象を取り上げて、それに遭遇したライフステージによる発達的影響の違いについて検討してみよう。

社会変動による影響は、私たちの人生に深刻な影響を与えることがあります。例えば、IT技術の発展は、私たちの生活のあらゆる面において変化をもたらしています。グローバル化により、国際的なビジネスや交流がますます一般的になり、ジェンダー役割のボーダーレス化により、男女の役割や期待が変化しています。

ライフステージによって、社会変動が与える影響は異なる可能性があります。以下では、いくつかの例を挙げながら、それぞれのライフステージにおける発達的影響の違いについて考察してみましょう。

  1. 子供期 IT技術の発展により、子供たちはより多くの情報や知識にアクセスできるようになりました。スマートフォンやタブレットを使って遊ぶことが当たり前になり、それに伴って子供たちの遊び方やコミュニケーションの形も変化しました。一方で、これらのデバイスを使いすぎることが、肥満や不眠症などの健康問題を引き起こす可能性もあります。
  2. 学生期 グローバル化により、海外留学やインターンシップがより身近なものになりました。これにより、学生たちは多様な文化やビジネスの知識を習得し、世界観を広げることができます。一方で、留学やインターンシップに参加できない場合、自己評価が低下する可能性があります。
  3. 就職期 グローバル化により、就職活動がより国際的なものになっています。外国企業で働くことを希望する人も増えています。また、女性が男性と同等の仕事や役割を果たすことが期待されるようになり、ジェンダー役割が変化しています。これにより、女性の就職や昇進が促進される可能性があります。
  4. 家庭期 ジェンダー役割のボーダーレス化により、男性も育児や家事を積極的に行うことが期待されるようになりました。

 

・中高年者への心理臨床的支援をめぐる問題を考えていく上で、彼らの生きてきた時代背景について、どのようなスタンスで臨むひつようがあるのだろうか。

中高年者への心理臨床的支援を考える上で、その方々が生きてきた時代背景について理解することは非常に重要です。なぜなら、彼らの生い立ちや経験によって形成された世界観や価値観が、彼らの問題や悩みに対するアプローチや解決方法に影響を与えるからです。

そのため、心理臨床的支援を行う上で、彼らが生きてきた時代の文化、社会、政治的な出来事、技術の進歩などについて、理解する必要があります。また、彼らの世代が抱える共通の問題や価値観、そして個人的な経験にも目を向け、それらを踏まえた上で適切な支援を提供することが求められます。

しかしながら、時代背景に関する理解はあくまで出発点に過ぎず、個人的な経験や価値観は、同世代の中でも異なる場合があります。そのため、心理臨床的支援を行う上では、個人的な経験や価値観についても、十分な理解を深め、それぞれの人に合わせた支援を提供することが必要です。

また、中高年者への心理臨床的支援を行う上で、年齢に対する偏見や差別にも注意を払う必要があります。年齢や世代に基づく偏見や差別は、支援を受ける側の自尊心や自己肯定感を傷つけることがあり、適切な支援が提供できなくなることもあります。

つまり、中高年者への心理臨床的支援においては、彼らが生きてきた時代背景を理解し、個人的な経験や価値観にも目を向けた上で、偏見や差別に配慮した適切な支援を提供することが求められます。

Pocket
LINEで送る