日銀は大規模緩和を維持したが…物価上昇を超える賃上げへの道のりは険しく
日銀は18日の金融政策決定会合で、現行の大規模な緩和策の修正を見送り、昨年12月に引き上げた長期金利の上限を「0.5%程度」で据え置いた。黒田東彦(はるひこ)総裁は会合後の記者会見で長期金利について「さらに拡大する必要があるとは考えていない」と説明。企業が賃上げ可能な環境を整えるための経済の下支えとして、緩和維持が重要との考えだが、物価上昇に賃上げが追いつくかどうかは見通せない。(寺本康弘、大島宏一郎)
金融市場では観測が強まっていた長期金利の上限の再引き上げが見送られたことで、日米の金利差が意識され、東京外国為替市場では一時1ドル=131円台まで円安が進んだ。新発10年債の利回りも急低下した。
日銀は会合終了後に「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」を公表し、2022年度の物価見通しを3.0%に引き上げた。23年度は、政府による電気代やガス代の抑制策が物価を押し下げ、1.6%と22年10月公表時点から据え置いたが、その反動で24年度は1.8%と引き上げた。現状の物価高は輸入物価の転嫁などが進んで起きているものの、輸入物価の上昇は次第に収まるとした。
黒田氏は会合後の会見で、23年度以降の物価見通しが目標の2%を下回っているとした上で「2%を超えるまで(金融緩和の)拡大方針を継続する」と強調。一方、賃上げについては「(企業での)人手不足がかなり顕著になっており、春闘で賃金の上昇がもたらされようとしている」と期待した。
ただ、物価上昇を超える賃上げへの道のりは険しい。直近の毎月勤労統計調査によると、物価上昇を反映した「実質賃金」は前年同月比3.8%減と8カ月連続のマイナスとなっている。
◆投機筋による国債の売り圧力 日銀は防戦一方
日銀は18日の金融政策決定会合で、前回の会合で修正した長期金利の上限を「0.5%程度」で維持した。現行の緩和策の継続は困難とみる投機筋による国債の売り圧力は、今後も続くと見られる。国債価格の下落は金利上昇を招き、景気悪化に陥りかねないため、日銀は大量の国債購入という防戦に追い込まれている。(大島宏一郎、寺本康弘)
「(現在の金利政策は)十分に持続可能だ。影響を評価するには、なお時間を要すると思う」。18日の決定会合後の記者会見で、黒田東彦(はるひこ)総裁は大量の国債購入を継続することについて理解を求めた。
長期金利を巡っては、日銀が昨年12月の決定会合で上限幅を「0.25%程度」から「0.5%程度」に引き上げたことで、市場では「事実上の利上げ」との見方が広がり、国債価格下落を見越す投資家の間で売る動きが加速。13日以降、連日0.5%を超える。
住宅ローンや企業融資の金利の指標となる長期金利は、市場で取引される10年物国債の「利回り」を基に決まる。10年後の満期で受け取れる額が決まっているため、市場で売られると価格が下がった分だけ、利回りが上昇するという関係にある。先月の政策修正後はさらに金利を日銀が引き上げることを見通す投機筋による国債売りを受け、市場で長期金利の上昇圧力が高まっていた。
これに対し、日銀も大量の国債を買い支えるなど防戦。13日には1営業日当たりで過去最大となる5兆83億円分の国債を購入するなど、1月の買い入れ額は17日までで既に計17.1兆円超に上り、1カ月の過去最高額に達した。資金循環統計(速報)によると、日銀が保有する国債(短期を除く)の割合は、昨年9月末時点で既に発行残高の5割を超えている。
異様な状況が続くものの、黒田氏は会見で「国債の保有量の増加が何か特別なリスクがあるとは考えていない」と強調する。
一方、決定会合を受け、18日の新発10年債の利回りは一時0.360%に下落。だが、ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏は「市場では政策が修正されるとの見方は引き続き根強く、今後も国債は売られやすく長期金利は(再び)0.5%台に張り付く」と話す。
識者の間では現状の緩和策の継続は困難との見方が多い。「方向転換を図るべきだ」(元日銀理事の早川英男氏)との声も強まる。一方で、金利上昇を許せば住宅ローンなどに影響し家計や企業の負担増で「景気への逆風となりかねない」(エコノミスト)ため、日銀のかじ取りはいっそう難しいものとなっている。