令和4年は給与の半分以上が税と社会保障に消える? 財務省「潜在的な国民負担率は56.9%へ」
SNSを中心に、給与の半分近くが税金と社会保険料で引かれているという声が広がりを見せつつある。江戸時代には、「四公六民」という言葉があり、農民はその年の収穫高のうち4割を年貢として領主に納める必要があった。
江戸時代の中期にはこれが五公五民となり、各地で一揆が起きたという。しかし、現代に翻ると、令和はそれよりも重い「六公四民」に近い状態となりつつあるようだ。
財務省のWebページには「令和4年度の国民負担率を公表します」という名前のページがある。これを見ると、「令和4年度の国民負担率は、46.5%となる見通しです」と記されている。さらに、「国民負担に財政赤字を加えた潜在的な国民負担率は、56.9%となる見通しです」と記載されている。
潜在的な国民負担率は、56.9%
国民負担率とは、「国民の給料のうちどれくらいの割合が税金や社会保険料のような支出で差し引かれるか」という指標である。そして、潜在的な国民負担率とは、財政赤字を解消するために将来世代が潜在的に負担する割合も踏まえた比率である。
この推移を確認すると、コロナ禍による財政出動が積極化した令和2年(2020年)に国民負担率が前年比で大きく上昇していることがうかがえる。令和4年には前年比で若干負担率は確かに下がってはいるが、私たちの実感の通り、給料に対する天引き額が年々右肩上がりの基調を続けていることは確かであるようだ。
潜在的な国民負担率の定義上は、「将来世代の負担する割合」と説明されることもあるが、足元の政策決定においては当然、財政赤字などの要素も考慮される。したがって、大多数の現役世代は退職までの間に、例えば天引き額の増加や所得控除の見直しなどといった追加の施策で割を喰らう可能性が高いだろう。
国民負担率の負担部分には、所得税や住民税のほかに、消費税や固定資産税も含まれる。また、社会保障の負担率には健康保険料や年金保険料も含まれる。
「消費税減税」では効果が薄い?
巷(ちまた)では、現行の消費税10%を8%ないしは5%程度に戻すことを掲げる意見も散見されるが、実は国民負担率に占める消費税の割合はそれほど大きくない。
今月10日に公表された最新の総務省の家計調査年報(2021年度)データを確認しよう。これによると、1人あたりの平均的な生活費は月当たり15万5561円だった。ここから、消費税がかからない家賃等の支出項目3万4918円を引くと、毎月12万643円のおよそ10%となる1万2000円程度の消費税を支払っていることになる。
ここで、消費税を10%から8%や5%に戻すと毎月の負担はどれほど軽減されるだろうか。
消費税を一律8%にした場合、12万643円×8%=9651円となり、月あたり約2400円の負担軽減効果が期待される。消費税を一律5%にした場合は、12万643円×5%=6032円となり、月あたり約6000円の負担軽減効果が期待されるにとどまる。
一方で、給与から天引きされる金額は、収入帯にもよるが社会保険料や所得税・住民税合わせておおよそ20%程度だ。日本の平均年収445万円でいうと、年間89万円もの出費が発生している計算となる。そして、天引きされる大項目である社会保険料、所得税、住民税のうち、最も割合として大きいのが社会保険料で、この部分だけで天引き額の66%を占める割合となっている。
現に、財務省の国民負担率における分類を確認しても「国税」「地方税」「社会保障負担」のうち、やはり社会保障負担が18.7%とトップとなっており、国民生活における社会保障関連の負担が高まっていると考えられる。
1970年の社会保障負担の比率は5.4%であり、そこから3倍以上に負担率が拡大している項目も社会保障負担だけだ。ここから考えると、消費税よりも負荷の大きさや負荷の伸び率が高い社会保障に何らかの対策を講じなければ、今後の国民生活も厳しくなってくることが予想されてくる。
消費税はレシートなどで何かと目にする機会があり、「支払っている」という意識がつきやすい。そのため、消費税を軽減するべきであるという主張は国民の支持を得やすいのだろう。しかし、年々負担が重くなっている社会保険料の負担は天引きされるため、明示的に意識する機会は少ないのかもしれない。
短期・長期の施策が必要
社会保険料対策は、いくつか方法が考えられる。例えば、月の一般的な診療にかかる自己負担率に段階を設け、深刻でない事情については医療費がある程度かかるような設計とすることで、公の負担する医療費を削減することもできるだろう。また年金の受給タイミングなどを調整するといった対策もあり得る。しかし、それはあくまで短期的な視点の施策だ。
上昇基調となる国民負担率を軽減するためには、やはり長期的な施策が必要となる。例えば、少子化対策もその一つの施策だ。
今年は「団塊の世代」と呼ばれる、他世代と比較して出生数が突出して高かった1947年生まれの人々が75歳を迎える。
24日に厚生労働省から発表された人口動態統計によれば、21年度の出生数は、過去最低を記録した20年度よりもさらに1.3%減少して84万2131人となった。足元では、14年連続で出生数が減少しており、22年度を見ても、かねては期待されていたはずの「コロナ禍中における産み控えによる反動増」が来る気配もない。
25日には、岸田首相の「骨太の方針」原案で、少子化対策として23年に「こども家庭庁」なる組織を設立し、子育て関連の公的支出を将来的に倍増する方針を示した。
これまで積極的に少子化に対する予算が組まれてこなかったが、「骨太の方針」によってようやく動きが生まれてくるのだろうか。岸田政権初となる「骨太の方針」は、例年6月頃に開催される経済財政諮問会議にて正式に策定される。国民負担の軽減や少子化対策といった項目にも要注目だ。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCFO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CFOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら