人生はロングゲーム 成功を引き寄せる長期の戦略とは
本はリスキリングの手がかりになる。NIKKEIリスキリングでは、ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチし、本探し・本選びの材料を提供していく。今回は定点観測している紀伊国屋書店大手町ビル店だ。1月の客足はやや鈍り気味だったが、ビジネス書全体で見ると反応のある新刊も少なくなく、やや上向きの傾向にあるという。そんな中、書店員が注目するのは、作家やユーチューバーとして活躍するメンタリストDaiGo氏がおすすめ本として紹介したことで話題になった長期的な視点で人生戦略を説く翻訳書だった。
世の中には、非常に知的であるにもかかわらず、不成功に終わった人がたくさんいます。
なぜか? ウォーレン・バフェットはこう言っています。
「他の人より賢くなる必要はありません。他の人より自制心を持つ必要があるのです。」
言い換えれば、「天才であろうと、自制心がなければ負ける」ということです。
自分の専門分野に熱心に取り組み、決して諦めなければ、いずれは 「天才だ 」と思われるようになりますよ。
■「年始に読むと人生変わる」とDaiGo氏
その本はドリー・クラーク『ロングゲーム』(桜田直美訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。2022年7月と半年ほど前の刊行の本だから手に取ったことのある人も多いかもしれない。ここへ来て売り上げが伸びているのは、メンタリストDaiGo氏がユーチューブ動画で「【2023年】年始に読むと人生変わる本TOP5」の1位としてこの本を紹介したためだ。
人生をロングゲームととらえ、これを根底から支えるコンセプトと戦略、成功へのプロセスをすべて明かすという内容だ。著者のクラーク氏は米国の著名なコーチで、2年に1度最も影響力のある経営思想家50人を選ぶ「Thinkers50」に19、21年と2回続けて選出されている。米デューク大やコロンビア大のビジネススクールのエグゼクティブ教育コースで教え、「ハーバード・ビジネス・レビュー」のレギュラー執筆者でもある。何冊も著作があるが、邦訳されたのは本書が初めてだ。
各所を飛び回って講演をこなす忙しい日々。自宅から空港へ向かうタクシーの中で、著者は「突然、何か鋭いもので刺されたような感覚に襲われた」と記す。「私はなぜ、こんなふうに生きる人生を選んでしまったのだろう?」。その疑念から始まって著者は自身の人生戦略を見直す。と同時に「現在のめまぐるしい世の中で長期の思考を持つことの大切さ」をテーマとした本の執筆を思い立った。それが本書だ。
■「余白」を作る実用的方法
全体は3つのパートに分かれる。パート1は「余白」。忙しい毎日から抜け出す、あるいは少しは「余白」を作る実用的な方法を見ていく。パート2は「集中」。ここが「ロングゲーム」の核心だ。正しい目標をどうやって見つけるのか、見つかったらそれにどのように挑戦していくのか、実行のための戦略や方法を考え、賢い時間の使い方や人間関係を築く方法を見ていく。
最後のパート3が「信念」。障害や挫折を乗り越えて前に進んでいくために必要な要素について考える。戦略的忍耐や、失敗と実験をきちんと区別する考え方、収穫を味わう方法などが提示される。どのパートにも成功したビジネスパーソンの具体的なエピソードがたっぷり語られているので、著者の考え方を実際の行動にひきつけて考えられ、頭に入ってきやすい。
キャリア視点の方法論として参考になるのは、パート2で示される「波で考える」というやり方だろう。キャリアを「学ぶ」「創造する」「つながる」「収穫する」という4つの大きな波に区切って考えるというコンセプトだ。それぞれを「海の波」と考え、「うまく乗りこなし、さらに次の波にスムーズに移行できるように訓練する」というやり方だ。
同店では、5冊の書名を並べた店頭販促(POP)をつけて、ほかの4冊も含めてビジネス書の棚端の平台に展示し、来店客の関心を引いている。「本人の動画だけでなく、切り抜きの動画なども拡散されて多くの読者をひきつけているようだ」と店長の桐生稔也さんは話す。
■『伊藤忠』が4位に
それでは、先週のランキングを見ていこう。
1位は『絶対に損をしない不動産投資の教科書』。ビジネスパーソン向け資産運用コンサルティングを手がける著者による不動産投資指南書だ。今回紹介した『ロングゲーム』は2位に入った。3位の『実録バブル金融秘史』は大和証券のMOF(旧大蔵省)担当や証券団体協議会委員長を務めた著者がバブル崩壊後の金融危機を振り返る。4位の『伊藤忠』は本欄の記事「伊藤忠はなぜ強いのか? 歴史とエピソードからひもとく」で紹介した本だ。5位の『中小企業金融の経済学』は、中小企業金融が必要な流動性を供給し効率的な資金配分を行えているかを実証的に検証した研究書。6月刊行の本だが、日経・経済図書文化賞を受賞したこともあり、金融機関の多い大手町で上位に浮上したようだ。
(水柿武志)