システム開発はなぜこうも「失敗」を繰り返すのか 相次ぐ「億円単位」の減損、背景に共通の問題点
計画よりコスト増加、遅延で開発断念
「しかるべき働きかけやチェックをし切れないまま、ずるずると時間を要してしまった。」
【一覧表】100億円規模も…基幹システム開発中止などで損失を出した企業
NIPPON EXPRESSホールディングス(以下、NXHD)の赤石衛執行役員は、2月14日に開いた決算説明会で悔しげにそう語った。基幹システムの開発中止とそれに伴う特別損失の計上を受けての発言だ。
NXHDの子会社・日本通運では航空輸送事業におけるグローバル共通基盤の構築を目指し、「新・国際航空貨物基幹システム」の開発を進めていた。だが、当初計画よりも開発コストの増加、開発期間の延長などが見込まれることから、開発を断念。これに関わるソフトウェア仮勘定について、154億円の減損損失を2022年12月期決算に計上した。
遅延が発生した要因については、「開発ベンダーとのコミュニケーションに問題があったのではと社内で分析している。納品前において、成果物の検証をしっかり行うプロセスができていなかったのではないか」(赤石氏)。
今回の事案を踏まえ、2023年1月に新設したITデジタルソリューション本部では今後の大型開発案件について妥当性評価やモニタリングを徹底していくという。
こうしたシステム開発の“失敗”は枚挙にいとまがない。近年の事例を見ても、金融、小売り、メーカー、インフラなど、多種多様な業界の各社がシステム開発に関わる億円単位の損失を出していることがわかる。
開発断念の理由としてよく挙げられるのは、NXHDのケースと同様、開発の遅延だ。開発ベンダーとの間で取り決めた「要件定義」に不備があったり、つくりたいもののレベルに合ったベンダーをそもそも選定できていなかったりすることが背景にある。
出来上がった頃には「時代遅れ」
デジタルの世界は進化が速い。プロジェクトが遅延すればするほど、出来上がった頃にはすでに時代遅れ……という事態に陥りかねない。また、SaaS(クラウド型ソフト)の普及などで、わざわざ自社で膨大なコストをかけずとも実現できる道が開けてしまうこともある。
割り切って方針転換すればいいが、失った時間や費用はもう返ってこない。
失敗の典型としてもう1つ挙げられるのが、リリース後の不具合の多発だ。記憶に新しいのは、厚生労働省が開発を主導した新型コロナウイルスの接触確認アプリ「COCOA(ココア)」だ。
感染したことを登録できない、感染者と接触したにもかかわらず通知が届かないなど、開始直後から数々の不具合が発生。どんなサービスであれ、開始後に一定の不具合が発生するのは仕方ない。が、厚労省の調査では事前の動作確認テストが不十分だったこと、省内の専門人材が不足していたことなどの反省点が挙げられている。
国の感染症対策方針の変更に伴い、ココアは昨年11月から順次機能停止しているが、期待された役割を全うしたとは言いがたい。
システムやアプリ・Webの開発におけるこうした失敗が、より裾野の広い中小企業で顕在化してくるのはこれからだろう。
東京商工リサーチが中小企業に行った「自社のデジタル化の段階」についての調査によれば、「段階3:デジタルによる業務効率化やデータ分析に取り組んでいる状態」と「段階4:デジタル化によるビジネスモデルの変革などに取り組んでいる状態」と回答する企業の合計が、2021年にようやく全体の半数を超えた。
システム開発・導入が本格的に進むのは、まさにこれらの段階からだ。だが、多くの中小企業では大企業に比べIT専門人材の層が薄い。発注者側が門外漢ばかりでは、ベンダーとのコミュニケーション齟齬(そご)に陥るリスクがある。
経営者の「無知」も影響
もう1つカギを握るのは経営陣だ。情報処理推進機構はDXに関する報告書の中で、「IT業務に見識がある役員の割合」と「DXの成果」との相関について紹介している。
例えば「既存製品・サービスの高付加価値化」という項目への「成果あり」との回答は、見識のある役員比率が0〜3割未満の会社で36.5%なのに対し、同7〜10割の会社では52.1%にも達する。ほかにも10ポイント以上差のついた項目が複数あった。
人員や予算の確保には当然、経営陣の意思決定が必要になる。現場任せ、専門家任せのままでは、DXの成功は遠のくばかりだ。