ザ・シークレット・サービス 原題: In the Line of Fire

ザ・シークレット・サービス』(原題: In the Line of Fire)は、1993年製作のアメリカ映画。かつてアメリカ合衆国大統領を守ることができなかった老練なシークレットサービス・エージェントと、大統領暗殺を目論む殺し屋との対決を描くサスペンスアクションスリラー。主演はクリント・イーストウッドジョン・マルコヴィッチレネ・ルッソ[4]

フランクが高齢ながら精力的に警護に努める一方、ブースは逆探知されていることを知りながらも何度もフランクに電話を掛け、

フランクは、心理学的な分析記録(プロファイリング)は、あてにならないので読んでいないと、言うと

「心理学的な断片をいくら集めても、人の行動は説明がつかない。」

と、ブースが言い、続けて

「どうしたって無理だ。説明がつくわけではない。

神が悪を懲らしめ、善に報いるとは限らない。

人は死ぬ、死んで当然の奴もいれば、ミネアポリス生まれというだけで死ぬ奴もいる。

無意味に、成り行きで」

 

ジョン・マルコヴィッチは、これまで様々な役を演じてきた俳優だ。文芸作品を映画化した『二十日鼠と人間』では心優しい青年、『アイ・アム・キューブリック!』ではスタンリー・キューブリック監督になりすます詐欺師、そして『マルコヴィッチの穴』ではマルコヴィッチ自身として登場した。今回は、そんな彼の『ザ・シークレットサービス』での悪役ぶりを紹介したい。

かつてジョン・F・ケネディ大統領の護衛を務めていた、シークレットサービスのフランク・ホリガン(クリント・イーストウッド)。彼は厳重な警備を進言しながら大統領に却下され、その結果、暗殺を防げなかったという苦い過去を持っている。それから30年後、新たに大統領暗殺を計画する男が現れる。それがマルコヴィッチ演じるブースだ。ブースという名は、リンカーン大統領を暗殺した犯人のジョン・ウィルクス・ブースから取られている。

さて、『ザ・シークレットサービス』のブースは、何においても執拗な男として描かれている。例えば、彼はケネディ暗殺事件を研究しているが、大統領だけでなく、フランクについても調べてあげている。そしてフランクの自宅や職場にまで電話をかけ、「これは運命だ。お前は2人の大統領の暗殺に関わるんだからな」と暗殺を宣言。そして自らの思いを長々と話すが、逆探知はされない。ブースは電話回線を操作する装置を操っているのだ。

また、ブースは変装の名人でもあり、行動するときはいつも付け鼻を付けてカツラを被り、絶対自分と分からないよう、顔を隠す。さらに銃は、彼好みにカスタマイズした手製のものだ。

ある日、自作の銃を森で試し撃ちしていると、そこにハンターがやってくる。ハンターに対し、ブースはなぜかあっさり「この銃で大統領を撃つ」と告げる。「なぜ大統領を?」と聞くハンターに、ブースは「お前はなぜ鳥を撃つ?」と問い返すと同時に、ハンターを撃ち殺す。ここでのマルコヴィッチは表情ひとつ変えず、引き金を引く。その演技は、ブースの狂気を秘めた恐ろしさを際立たせている。 さらにブースは、再選を狙ってアメリカ各地を遊説する大統領と警備のフランクを追ってアメリカを回る。チャンスがありながら、暗殺をなかなか実行せずに大統領とフランクを追う姿は、まさにストーカー。執拗な一方、どこか奇妙にも見える彼の行動は、観ていて怖いというよりむしろコミカルに映る。

ブースは「俺たちは似ている。大統領に命を捧げ、誠実で有能だったが、信じる者に裏切られた」とフランクに言う。実はブースは元CIAの暗殺要員だった。しかし、政治情勢の変化と共に無用の存在となり、今では社会に戻ろうとしても復帰できない人間になっていた。そしてブースは自らの復讐のため、大統領暗殺を企てたのだった。

大統領を守る側として訓練を受けたフランクに対し、殺す側として訓練を受けたブース。彼は言う。「生きることは退屈だ。だから刺激を与えてやる」。常軌を逸した言葉だが、国によってモンスターにされてしまった男の悲哀も感じさせるセリフだ。

ブースはマルコヴィッチによって、複雑な感情を抱く執拗なキャラクターとなった。『ザ・シークレットサービス』の一番の見どころは、そんな悪役を作り上げたマルコヴィッチの演技と言えるだろう。

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