いま、欧州で仕事へのヤル気を失う若者たちが急増中…!コロナ・インフレ・戦争「三重苦」の、ヤバすぎる現実
いま、欧州で仕事へのヤル気を失う若者たちが急増中…!コロナ・インフレ・戦争「三重苦」の、ヤバすぎる現実
欧州で深刻な人手不足が起きている状況について伝えた前編記事『崩れ行く欧州社会の「ヤバすぎる実態」…! 「ガソリン代を払ってクルマ出勤するぐらいなら、失業手当で生活する」』に続き、後編ではその原因や背景についてさらに紹介します。
コロナ・インフレ・戦争の「三重苦」
インフレ率が30年ぶりの高い水準に達しているイギリスのスーパーマーケット[photo by gettyimages]
なぜ、欧州ではいま、深刻な人手不足に見舞われているのでしょうか。
現在、道行く人は誰もマスクを着用していないヨーロッパですが、パンデミックが始まった当初は各国厳しい規制を敷いていました。小売店や飲食業、交通などのビジネスは多大なダメージを受け、人々の間で「次また未知のウイルスが流行った時に、自分の仕事は直ぐに切られるのではないか」という不安が高まりました。
解雇された従業員は、このような不信感からコロナが明けた今もそれらの仕事に戻ることがないと見られています。 そんな欧州の人々の生活難に拍車をかけているのが、破壊的なインフレーションです。
ユーロ圏のインフレ率は8月も過去最高となりました。オランダ、イギリスともにインフレ率は7月時点ですでに10%を超えています。物価が高騰し、オランダでは昨年9月に比べてスーパーでの買い物の価格が平均18.5%も上がったことが報告されています。
ある調査によると、平均的なオランダの4人家族の場合、昨年は1年間の食費に平均7000~8000ユーロ(約97万~111万円)かけていたのが、今年は1500ユーロ以上(約21万円)増える計算になるといいます。
価格の高騰は食料のみならず、光熱費にも及びます。光熱費は家庭によっては前年に比べ3~4倍以上を請求されるケースもあり、オランダに住む我が家のガス料金も2.5倍近く値上がりしました。
先日、オランダ政府とエネルギー企業はガスと電気料金の上限の設定に同意し、ウクライナ戦争が始まる前(今年1月) の価格が適用されることが決定されました。
しかし、NL#TIMESによると、「エネルギー価格は2021年5月以降高騰し続けているが、ロシアのウクライナ侵略により、価格の上昇は非常に激化」しているとのこと。実際、今年1月の価格も、数年前に比べればすでに割高でした。 そして、今後の戦況次第では、さらに価格が高騰する可能性もあります。
人手不足や物価の高騰は、子供たちの学校生活にも影を落としています。オランダの学校では、新しい教科書が届かず、教師たちは教科書を印刷して使用していることが報告されています。さらに、体操靴や問題集などの学用品を買えない貧困家庭が続出し、支援団体には爆発的な数の援助のリクエストが送られているとか。
パンデミックが終わった後も、上がっていくインフレ率に給料が追い付かず、家計は圧迫され、トドメにウクライナ戦争の影響で光熱費も高騰…。コロナ・インフレ・戦争の「三重苦」によって、今後欧州のさらなる格差拡大が危惧されています。大変残念なことに、これがいまの西欧社会の「現実」なのです。
「静かに辞める」若者たち
ドラッグストア「kruidvat(クライドファット)」の求人ポスター[photo by Satomi Chihara Bittner]
そうした中、現在欧米では、”Quiet Quitting”(静かに辞める)という言葉がトレンドになっています。
これは、欧米の若者の「任された仕事はきちんとやるが、それ以上のことはしない」という仕事に対する態度を指す言葉で、TikTokやYouTubeなどで「仕事に全力投球してキャリアを築く」という文化に反発する意味で使われています。
BBCは、“Quiet Quitting”を「パンデミック以降、余分な労働をしても認知されなかったり補償をされないことに疲れた若い労働者の数が増加した」と説明しています。
パンデミックによる解雇に加え、感染状況によって変わる出社規制は生活を不安定にし、若者たちは会社や雇用主への不信感を高めたのです。
人手不足が続く中、企業側もそうした若者たちの“Quiet Quitting”を意識して、求人ポスターをつくっている節があります。
1つめのドラッグストアの求人ポスター中央に記された表は、左から年齢(15歳~21歳以上)、時給、25%の賃上げが含まれる18時以降の時給、100%の賃上げが含まれる日曜の時給を示しています。その右下では、「スポーツ割引」「ドラッグストアの商品が従業員割引で10%引き」「親友と一緒に働こう」などと強調しています。 2つめの大手食料品店の求人ポスターも、15歳~21歳以上ごとに時給を提示し、「食料品のディスカウント」「アルバート・ハインのお買い得品」「ジムのサブスク10%引き」「柔軟な労働時間」「利益分配」と列挙。いずれも若者を対象に、割高な時給や特典を具体的にアピールしています。これに対し、3つめの老舗百貨店の求人ポスターは時給をいっさい明示しないまま、「やりがいがあり自分を試すことができる場所」であることをアピールしており、前の2つとの違いは明らかです。
こうした企業による若者たちへのアピールが奏功するかはいまのところまだわかりませんが、ここまで露骨なことをしなければならないほどに、欧州の人材不足と“Quiet Quitting”が深刻であるということは確かです。
千原ビットナー さとみ(ピアニスト・ライター)/週刊現代(講談社)