「70歳の半数以上」が働く時代に突入する…若者も知っておきたい「人生100年時代の実態」

「70歳の半数以上」が働く時代に突入する…若者も知っておきたい「人生100年時代の実態」

「人生100年時代」「老後2000万円問題」などと言われ、60代、70代以降のキャリアやお金の準備にまで不安を煽られる昨今。実際のところ今の高齢者の就労や生活の実態はどのようなものなのか。

そのリアルな姿を、多数の統計データとインタビューを元に著した坂本貴志『ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う』が大きな反響を呼んでいる。

定年後を生きる方々はもちろん、30~40代も今から知っておきたい60代以降の仕事や生活について、厚生労働省や内閣府などを経てリクルートワークス研究所にて高齢期の就労などを研究する坂本氏に訊いた。

70代でも男女ともに働くのが当たり前になる

――いま30~40代の人たちは、いったい何歳くらいまで働かないといけないというイメージを持てばいいでしょうか。

坂本 「何歳まで」という具体的な数字にお答えするのは難しいですが、現状2020年の国勢調査では70歳男性の就業率が約45%で10年前より10%以上伸びています。一方、女性の就業率は20%台ですが、これは今の高齢世代は専業主婦の方が多い世代だったからでしょう。今30~40代の世代はおそらく男女ともに70歳でも6~7割の人が働くのが当たり前になっていると思います。

高齢者の就業率は2000年代以降、とくに2010年代以降の上昇が顕著です。日本の年金財政や経済の厳しさ、あるいは労働者が受け取れる退職金や現役時代の賃金の停滞などを考えても、このトレンドは継続するでしょう。その人のもらえる年金の額や資産額、あるいは健康の度合いによってそれぞれではありますが、今の平均的な人よりも長く働き続けるようになっていくのは間違いありません。

――年金は60歳から65歳に支給年齢が引き上げられていますが、もらえる金額が増えることを考えるとさらに繰り下げしたほうがいいのでしょうか。

坂本 これも個々の事情に応じてになりますが、前提として、そもそも年金の捉え方が変わってきています。かつての年金は実質的に定年を迎えたあとの高齢期の生活を保障する「働かなくても豊かな生活を送るためのもの」という位置づけとなっていました。でも高齢化が著しいこれからの時代は、健康で働けるうちは働くことを前提にした「本当に働けなくなったときのための年金」になるでしょう。ですから個々人の事情に合わせて「本当に働けなくなったタイミングで受給を選ぶ」というつもりでいる必要があるのだと思います。

――いま働き盛りの人たちには「65歳、70歳でもはたして仕事があるのか」という不安もあると思います。

坂本 昔は高齢期にはなかなか仕事が見つかりませんでした。企業も求職者がいるなら若い人優先でした。ところが日本全体で若い人が減って人手不足が深刻化したため、高齢者雇用なしには経済が成り立たなくなっています。実際、失業率は2%半ばという低水準です。ですから、もちろん仕事の内容や条件によるものの、高齢者が仕事を探したときに何も見つからないということはまずない。賃金水準も「上がらない」と言われ続けていますが、最低賃金や短時間労働者の時給に関して言えば、厚生労働省の毎月勤労統計では近年は年率2~3%ずつ上がってきています。人々を取り巻く経済状況が厳しくなっているということは事実ですし、高齢者の方を取り巻く労働条件が良くなってきているというのも事実です。老後に対して過度に楽観的になる必要もないですし、過度に悲観的になる必要もありません。


働く動機は「人や社会の役に立ちたい」
――高齢者が就労する/できるものとしては、どんな仕事がありますか。

坂本 現役時代とまったく同じ仕事でいられるかに関しては難しいことも多いというのが現実です。たとえば技術者として第一線で働いていた方が、70~80歳になってもずっと専門性を活かした仕事をするとか、管理職まで上り詰めた人がその職を定年後もずっと続けるというのはレアケースです。一方、最終的には多くの人がこれまで違う仕事に移っていきます。

こう言うと、若いときには「キャリアで成長したい」「組織内で昇進したい」「高い給与を得たい」というモチベーションで働いている方がそれなりの数いますから、今の感覚ではそうした高齢期の労働についてネガティブな印象を抱くかもしれません。しかし、高齢期になると働く動機自体が「人の役に立ちたい」「社会の役に立ちたい」あるいは「からだを動かしたい」などに変わっていくこともあり、当事者は必ずしも現状を否定的に捉えてはいません。

――高齢期にはそれまでのキャリアを活かせず、働く動機も変わっていくのだとしたら、少なくないビジネスパースンが追い求めている出世したいという欲や誰にも代わることができない誇りある仕事をしたいという夢のようなものを人生の後半~終盤かけてどのように考えていけばいいと思いますか。

坂本 多くの定年後の就業者から話をうかがうなかで、定年後に幸せな生活を送る上で重要だとわかってきたのは「過去の自身のキャリアがどのようなものであったか」ではなく「いまの仕事が豊かで満足できるものか」どうかということです。

30~40代の方が現在のキャリアにおいて「成長したい」「仕事を極めたい」という気持ちを持ちながら働くことはいいことだと思っています。ただ、人間は歳を取るに従ってそれまでできたことができなくなっていきます。そういう現実の中で「出世したい」「高い賃金をもらいたい」「役職に就きたい」と固執しながら働くほうがうまくいかなくなってくる。どこかのタイミングで現実に向き合い、考え方が変わらなければいけない。定年のタイミングで考えが変わる人がいればもっと遅い人も、もっと早い人もいるでしょう。これも年金受給年齢と同様に「やれるところまではやる」、しかし難しくなってきたら少しずつ考えも変えていく必要がある。

まだ若い方は、今のうちから「人生のフェーズごとに働くことに対するスタンスが変わる」という事実を知っておけば、そのときできることに合わせて考えを柔軟に変えながら長く働き続けられるということにもつながるのかなと思います。

――高齢期に働くとして、どのくらい稼げばいいのでしょうか。

坂本 これも年金次第です。いつから受け取るのか、どれくらい入ってくるのか。現状の制度は――経過措置の最中ですが――おおむね65歳からの支給になっています。厚生年金の平均的な金額は、厚労省が提示しているモデル世帯(夫が働いて平均くらいの給与を稼ぎ、妻は専業主婦の世帯)では20万円くらいです。総務省家計調査でも一世帯(二人以上)で実際の支給額も20万円程度になっています。60歳定年の場合、65歳までは年金がないものとして稼がなければいけませんが、65歳以降を考えると、そんなに多くなくてもいい。70代に入ると家計の支出の額を見ると30万円弱ですから、年金20万円に加えて夫婦で合わせて月10万くらい稼げば平均的な暮らしができるはずです。現在の若い世代は男性も女性も働くことは当たり前になっているわけですから、夫婦ふたりがそれぞれ月15万くらい稼げれば年金なしでも生活できるという計算になります。

かつての「年金が出るなら定年後は働かなくていい」というイメージはこれからはもう諦めなければなりません。一方で、「年金制度は破綻するから将来は歳をとっても現役時代と同じように働かなくてはいけない」という考えも明らかに事実とは異なります。厚生年金の加入者であれば「小さな仕事」でも働き続けさえすればなんとかなるわけですから、大げさに不安視する必要もないでしょう。


60代後半の持ち家率は9割以上の衝撃

――歳を取ってからの仕事は労働強度的に大丈夫かな、という心配もあると思いますが。

坂本 私がインタビューしたなかでは、高齢期に満足して働かれている方の特徴には3つあります。ひとつが「健康的なリズムを維持できていること」、ふたつめは「無理のない仕事であること」、3つめが「利害関係のない人とゆるやかにつながること」。無理のない仕事であることが特に重要です。高齢期には精神的なストレスや身体的な負荷、労働時間が少ないほうが当然ながら望ましく、かつ、現状では無理のない仕事をしながら生活と両立している方のほうが多数派であろうと思います。

もちろん、どんな仕事があるかは地域にもよりますし、国民年金にしか入っていないなどの理由でもっとたくさん稼がないといけない家庭では労働時間が長い仕事も選択肢に入れざるを得ません。現状もそうですし、将来を展望しても、厳しい状況に直面する人は一定数存在します。

ただ、先ほど言ったように、支出も現役時代に比べれば相当少ない。ふたり以上世帯では教育費もかからなくなりますし、住宅ローンもほとんどの人が返し終えている。60代後半の持ち家率は9割以上です。都市部の人は借家の方もいますが、地方ではほとんど持ち家で、家賃もかかりません。データで見ると50代では支出が月60万弱だったのが70代以上では30万を切ります。ですから厚生年金でない方であっても、ある程度は仕事を選べるはずです。

――高齢期を見据えると、家は買ったほうがいい?
坂本 持ち家のほうが高齢期の暮らしを考えるといいのではないかと私は言っています。借家の場合、たとえば自分が100歳まで生きた場合、60歳定年のあとさらに40年間も賃料を毎月数万円払い続けなければいけない。逆に80歳まで生きるのであれば家賃の支払いは20年間で済む。一方、持ち家は購入のタイミングで巨額の出費がありますし修繕費もかからないわけではないのですが、支出の総額は人生の早い段階である程度確定させることができます。このように考えると、生涯の住宅費の総支払い額がどっちが得かという論点は別としても、持ち家のほうが支出額の不確実性が抑えられる選択肢となります。老人ホームなどの施設に最終的に移るにしても、持ち家のほうが借家よりも不確実性が低いということを理由に、ベターな選択なのではと個人的には思います。

後編「60~70代で病気になったら、どんな『老後』が待っているのか」では、病気や非正規のケース、「男性/女性」「地方/都市」での老後の違いについて掘り下げている。

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