「資本主義はあと2年でダメになる」「東京を捨てて逃げたほうがいい」…森永卓郎が本気でそう考える理由

出生数80万人割れ、物価高・低賃金、増負担時代……人口激減&家計大苦難時代に私たちはどう生き延びることができるのか、日本の企業はどうすべきか?

話題の新刊『増税地獄 増負担時代を生き抜く経済学』(角川新書)の上梓した経済アナリスト・森永卓郎さんと、累計100万部突破シリーズの最新刊『未来の年表 業界大変化』(講談社現代新書)著者のジャーナリスト・河合雅司さんが、日本の大問題と厳しい現実について語り合った。

(撮影:村田克己)

(左)河合雅司さん、(右)森永卓郎さん

(左)河合雅司さん、(右)森永卓郎さん© 現代ビジネス

『未来の年表』は本命で『増税地獄』は万馬券?

森永:河合さんの新刊『未来の年表 業界大変化』を読んで思ったのですが、この『未来の年表』シリーズは、すごく誠実にデータと向き合い、きちんと当たると思わせる予測を提示されていて、いつも感心するのです。

シリーズ最新作『未来の年表 業界大変化』は12月15日発売!

シリーズ最新作『未来の年表 業界大変化』は12月15日発売!© 現代ビジネス

河合:ありがとうございます。森永さんの新刊『増税地獄 増負担時代を生き抜く経済学』も、タイトルで少しギョッとしましたが、現下の厳しい状況をベースに、個人レベルでどうやって生き抜いていけばいいのかを教えてくれる本だと思いました。

「資本主義はあと2年でダメになる」「東京を捨てて逃げたほうがいい」…森永卓郎が本気でそう考える理由

「資本主義はあと2年でダメになる」「東京を捨てて逃げたほうがいい」…森永卓郎が本気でそう考える理由© 現代ビジネス

森永:今回の『増税地獄』は、これまで『相続地獄』(光文社新書)、『長生き地獄』(角川新書)と出してきた『〇〇地獄』シリーズという位置づけなのですが、私は河合さんとは性格がたぶん逆なので、どうしてもセンセーショナルな方向にいってしまいます。競馬でいうと、河合さんの『未来の年表』シリーズが本命なのに対して、私の『〇〇地獄』シリーズは万馬券狙いみたいな感じでしょうか(笑)

河合:じゃあ森永さんは一発当たると大きいのですね(笑)

さて森永さんは、いまの日本が直面している最大の問題はどこにあるとお考えなのでしょうか?

森永:またセンセーショナルなことを言うと思われそうですが、私はいまの資本主義が維持できるのはあと2年程度だと思っています。それに伴って、東京という大都市が続けてきた繫栄もあと2年ほどで終わりを告げるでしょう。だから「みんなで東京を捨てて逃げたほうがいい」と言っているのです。

「資本主義はあと2年でダメになる」「東京を捨てて逃げたほうがいい」…森永卓郎が本気でそう考える理由

「資本主義はあと2年でダメになる」「東京を捨てて逃げたほうがいい」…森永卓郎が本気でそう考える理由© 現代ビジネス

河合:著書のなかでも、ご自身で自給自足に近い生活を実践されていることが書かれていましたね。

森永:究極的なことを言えば、首都直下型地震が発生するリスクが大きいと思っているんです。1923年に起きた関東大震災からちょうど100年の周期を迎えた今年か来年あたりに地震が来る確率はかなり高いはずなのですが、この話をしてもあまりウケない(笑)

河合:地震がいつ起きるのかについては、さすがに私も予測できません(笑)

森永:それはそれとして、私はいまの世界経済は1929年10月24日「暗黒の木曜日」に始まった世界恐慌の状況に似てきていると思っています。岸田政権が増税による財政健全化や金融引き締めなどを過剰に進めると、当時の大恐慌ほどではないにしても、小さな恐慌程度はいつ起きてもおかしくないでしょう。

河合:なるほど。私の場合は森永さんほどにドラスティックな変化は想定しておらず、人口動態から「将来こういう社会になる」という予測可能性の高いシナリオを書いてきました。ご存じのとおり、人口の未来は「予測」ではなく、過去の出生状況の「結果」です。今年生まれた子どもの数が、20年後の20歳人口になるわけですから、人口の未来はほぼ外れることがありません。

森永:おっしゃる通りです。だからこそ河合さんの『未来の年表』シリーズの内容は本命なのですね。

資本主義がダメになる「3つの理由」

河合:そのうえで森永さんにお聞きしたいのは、大地震などのような突発的な自然災害が起きなかったとして、それでも資本主義があと2年ほどでダメになると考える理由は何でしょうか?

「資本主義はあと2年でダメになる」「東京を捨てて逃げたほうがいい」…森永卓郎が本気でそう考える理由

「資本主義はあと2年でダメになる」「東京を捨てて逃げたほうがいい」…森永卓郎が本気でそう考える理由© 現代ビジネス

森永:理由としては3つあります。

まず1つ目に、所得格差がとてつもないレベルまで拡大してしまったことです。国際NGOが2019年に発表したデータが話題になりましたが、世界人口のうち所得の低い半数の38億人の総資産と、最も裕福な26人の富豪が同額の資産をもっているというのです。コロナ禍を経て、所得格差はさらに拡大していることでしょう。

河合:日本でも格差が拡大していることを森永さんはご指摘されていますね。

森永:はい。日本では、所得に対して税金や社会保障費をどれだけ支払っているかを示す「国民負担率」がジリジリと上昇しており、2021年度では48%にまで増えているのです。働いて10万円稼いでも、税金と社会保険料で4万8000円が徴収され、手取りはたった5万2000円しかないというのが庶民の現実です。

一方で、年間所得が1億円を超えるような富裕層は、株式等の譲渡所得の割合が増えるため、相対的に税負担が減るのです。お金持ちほど税負担が小さいという日本のシステムでは、格差はさらに拡大するでしょう。

河合:上場株式の売却益などにかかる税率は一律20%ですからね。所得税よりもはるかに安い税率となります。

続いて2つ目の理由はなんでしょう?

森永:2つ目には環境問題があります。グローバル資本主義の進展により世界中で工業化が進んだ結果、温室効果ガス排出による地球温暖化の問題が顕在化しているのです。人類への深刻な影響が出るかどうかの境目は「産業革命前からの気温上昇を1.5度」のラインだと言われていますが、私はそれを超えてしまうのも時間の問題ではないかと思っています。マルクスも、資本主義が環境を破壊することを予見していました。

最後に3つ目の理由として、若い人たちの考え方の変化を挙げたいと思います。いわゆるブラック企業や、ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)に嫌気がさして、都会での労働を捨てて田舎で暮らそうとする若者が出てきました。

河合:私も日本企業に蔓延るブルシット・ジョブには批判的な立場です。労働生産性を下げる要因となっているだけでなく、人の働く意欲を削ぎますからね。

森永:もちろんまだ少数です。しかし一つの兆候として、ふるさと回帰支援センターの相談件数がコロナ前から急増していて、今では年間5万件程度にまでなっていることが挙げられます。都会で暮らすには生活コストが高いので、資本の奴隷にならざるを得ません。であれば、田舎で自由に暮らしたほうがいいと考える若者が増えてきているのです。

これらの動きからも、資本主義という仕組み自体をひっくり返す大きな転換期が近づいていると感じるのです。

田舎に分散して住んでいては社会が成り立たない?

河合:特に3つ目のご指摘は興味深いところですね。ただ、地方移住はよいのですが、それぞれが思い思いの場所に移り住むと人口減少社会においては問題が生じます。

今後の日本は、人口減少によって労働者も消費者も減っていきます。人口減少による国内需要の縮小と、高齢化に伴う消費量の縮小、さらに冒頭で森永さんがご指摘されたような可処分所得の縮小まで重なる、「トリプルでの国内マーケット縮小」が日本を襲うのです。

こうした状況下で、人々が分散して住んでいたのでは商圏がより速く縮小し、立地できない企業や商店が増えます。それでは生活もビジネスが成り立たなくなるので、私は「多極分散」ではなく「多極集中」で商圏を少しでも維持していく必要性を『未来の年表』シリーズでも訴えてきました。

「資本主義はあと2年でダメになる」「東京を捨てて逃げたほうがいい」…森永卓郎が本気でそう考える理由

「資本主義はあと2年でダメになる」「東京を捨てて逃げたほうがいい」…森永卓郎が本気でそう考える理由© 現代ビジネス

森永:移住するにしても個々人が思い思いに田舎に住むのではなく、全国各地の「極」となる都市に、なるべく集中して住んでもらおうという考え方ですね。それらの都市はどのくらいの規模をイメージされているのでしょうか?

河合:国交省は、人口10万人程度の商圏であれば大半の業種が存続可能だとしています。10万人都市をつくれということではなく、複数の自治体でこれぐらいの商圏規模を維持できれば生活に不可欠なサービスを概ね維持し得るとのシミュレーションです。全国で道路網が整備されましたし、デジタル技術も使えばかなり多くの地域で10万人商圏を形成することはできると思います。

ところで、人口が急激に減少していく中で「地方」に移住していくというのは、まさに森永さんが実践されているような自給自足的なライフスタイルへと転換していくことでもありますよね。果たして多くの人にとって、そうした暮らし方は実践可能なのでしょうか?

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