「行くも地獄、戻るも地獄」黒田・日銀 円安のスケープゴートに!?
黒田・日銀、円安のスケープゴートに!?(写真は、日本銀行本館)
円の下落が止まらない。対ドル相場は約20年ぶりの円安水準となり、ただでさえ資源高に苦しむ国内企業は輸入コストの上昇に悲鳴をあげる。
その「戦犯」扱いされているのが日本銀行の黒田東彦総裁だ。欧米など海外の中央銀行が次々と物価抑制に向けた利上げに舵を切るなか、黒田・日銀だけは頑なに金融緩和路線を維持し続けているためだ。
政府と二人三脚でアベノミクスを推進してきた黒田総裁だが、円安・物価高に国民の不満が高まるなか、政府・与党内からは責任を日銀に押しつけるような声もあがりはじめた。
身動きとれない日銀「市場に見透かされている」
「金融緩和路線を修正して景気が冷え込めば、日銀の責任になる。かといって緩和路線を続けて円安が進めば、その責任も問われる」
日銀関係者は黒田総裁の現在の立場をこう説明し、「行くも地獄、戻るも地獄だ。黒田総裁の任期はあと1年弱。このまま突き進むしかない」とうめいた。
日銀が身動きのとれない状況にあることは、市場に見透かされている。最近は黒田総裁が何か発言をするたびに市場に円売りの材料を提供する結果を招いている。象徴的なのが、円相場が1ドル=130円の大台を突破した2022年4月28日だ。
前日から開かれていた金融政策決定会合で、日銀が予想どおり現在の金融緩和路線の維持を決めたことが公表されると、午前中に1ドル=128円台だった円相場は一気に下落。あっさり節目の130円を超えた。午後に黒田総裁の記者会見が始まると、状況はさらに深刻化。
「当面の物価上昇は、エネルギー価格の上昇が主因であり持続性に乏しい」「経済を下支えし、基調的な物価上昇率を引き上げていく観点から、強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが適当だ」
壊れたレコーダーのように従来どおりの説明を繰り返す黒田総裁をあざ笑うかのように、会見中も円売りの動きが加速していった。
黒田総裁が金融政策変更に踏み切れないワケ
黒田総裁が金融政策変更に踏み切れないのには理由がある。
デフレからの脱却を目指した安倍晋三政権は2013年1月、黒田総裁就任直前の日銀との間で政策協定(アコード)を締結した。
日銀が物価目標2%の早期達成を目指し、政府は成長力強化や持続的な財政構造確立に取り組むという内容だ。この瞬間から日銀は事実上、政府の内諾を得なければ金融政策を変更できない状況に追い込まれた。
この推進役として選ばれたのが、同年3月に日銀総裁に就任した黒田総裁だった。
就任直後の記者会見で「2%の物価上昇を2年で達成する」と啖呵を切った黒田総裁だったが、物価を上げられないままマイナス金利の導入など金融緩和を次々と強化していった。
この間に財政改革に取り組むはずだった政府の財政は緩み続け、気づいた時には金融緩和の「出口」を議論することさえできない状況になっていた。
自民党の安倍晋三元首相はこの間も「(日銀の)金融緩和政策をしっかり継続しないと日本経済を悪化させかねない」との発言を続け、アベノミクスで手を携えてきた黒田総裁を擁護している。
このためか、岸田文雄首相も「(2%の物価安定目標に向け)引き続き努力を続けていただくよう政府としては期待している」(4月26日の記者会見)と、日銀の金融政策を支持する姿勢を変えていないが、政権内からは「足元の円安・物価高騰を何とかしないと今夏の参院選に響きかねない」との声がもれる。
最近は国会に呼び出されては野党の集中砲火を浴びる場面が目立つ黒田総裁。このままでは物価高騰のスケープゴートにされかねない状況だ。
「これまで(物価)目標が達成できずにいたが、今回は間違いなく2%を超える」
政策協定締結時に財務相だった自民党の麻生太郎副総裁は4月28日、党の財政健全化推進本部のあいさつで、日銀を突き放すようにそう指摘した。
黒田総裁の心中やいかに。(ジャーナリスト 白井俊郎)