「残業=やる気の表れ」と考える、時代錯誤な経営者に伝えたいこと
良い経営者ほど残業量で社員を評価しない
「残業時間の多い社員=仕事熱心な社員」。かつては経営者も社員自身もそんな考えを持つ人が多くいました。時代が変わり、社員に健康を害するような働き方を強いる会社は大企業であれ、中小企業であれ、許されなくなりました。いわゆるブラック企業です。
小宮コンサルタンツ代表
残念ながら、社員に膨大な仕事を押しつけ、残業代を払わずにサービス残業を強いる前近代的な会社もいまだに存在しますが、そのようないずれ淘汰されていくブラック企業の経営者は論外としても、今回は、残業は社員のやる気の表れ、だから残業代は支払うのでどんどん残業をしてほしいという旧態依然の考え方を捨てられない経営者に向けた話です。
私は30年以上前、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に勤めていた当時から、残業が嫌いでした。東京銀行は当時は日本唯一の外国為替専門銀行でしたので、海外の拠点とのやりとりがとても多かったのです。私は最後はM&Aの仕事に就いていたのですが、東京の午後5時、ロンドンのビジネス時間がはじまると30分程度ロンドンの担当者と電話で話をした後に帰宅していました。
友人と飲みに行くこともありましたが、自宅で家族と夕食を食べて、団らんをして、子どもが小さかったので風呂に入れたりしていると11時頃になります。すると今度はニューヨーク支店が業務を開始します。ニューヨーク支店の担当者は私の行動を理解しているので、家に電話をかけてくるし、私から連絡の必要があるときは自宅から電話をしていました。もちろん、電話代は会社に支払ってもらっていました。
プライベートの時間の充実は「甘え」ではない
それが私の働き方だったのですが、人によっては、ニューヨークが開くまで会社に残っていました。その頃は11時を過ぎるとタクシーで帰ることが許されていたので、残業代稼ぎとタクシー目当てだったのです。
もちろん本人は本音を隠して、上司に頑張っている自分をアピールしていたのでしょうが、上司はそんな演技にだまされるわけがなく、むしろ低い評価をつけていました。
今の私は20人ほどの会社の経営者ですが、社員に時々話をすることは、「残業をしないでください」ということ。ひとつは、日中ダラダラ仕事をして、そのせいで残業をして、それに対し残業代を支払うのは経営者としていやだからです。そして、社員も残業をしなければ、プライベートな時間を充実させることができます。
仕事以外のプライベートな時間を充実させることは決して「甘え」ではありません。人生を豊かにすることこそが、「良い仕事」をするための近道でもあります。
経営者自らが自分の態度で「No残業」を明確に示し、マネジャークラスの社員に浸透させていく意識も大切なのです。
私の場合、「No残業」と併せて社員に「勤務時間中は目いっぱい働いてください」とお願いしています。給料を払っているのだから当然のお願いです。
繰り返しになりますが、会社にとって最悪なのは、勤務時間中ダラダラ働いて仕事を終わせることができず、残業をして、残業代を稼ぐ社員です。先の東京銀行の例のように、本人はたくさんの仕事を抱えている仕事ができる人のように振る舞っているつもりかもしれないけれど、上司や経営者はちゃんと見抜いています。
仕事の質が「時間」に比例しないケースも
仕事の種類に応じた評価が必須
ただし、仕事には2パターンあって、時間をかけないと終わらない仕事と時間をかけなくても終わる仕事があります。
うちの会社で前者に当てはまるのは、サポートスタッフの仕事です。例えば資料を作成して製本するような仕事のアウトプット量は、かけた時間に比例するので、勤務時間内に終わらないときは申し訳ないけれど残業をしてもらって、当然、その対価として残業代を払います。
一方、コンサルタントの仕事のアウトプットはかけた時間に比例しません。“腕の良しあし”によるので、経験と知識が豊富で能力の高い人が短時間で出した答えのほうが、そうでない人が時間をかけて出した答えよりも優れていることは珍しくありません。そのため評価もアウトプットで行います。
このように経営者は、知的労働に対しては労働の対価を、働いた時間の長さではなく、アウトプットの質やそれに対するお客さまの評価、ひいては、いくらいただけるかで評価する必要があります。
そのためには、かけた時間にアウトプットの質や量が比例しないような職種では、職務内容に応じて人材を起用する「ジョブ型雇用」や「成果給」の導入も検討すべきでしょう。社員のほうは、もちろん努力は必要ですが、プロ野球選手と同じように、バッターボックスに立ったときに打てなければいくら練習熱心でも評価されないことを理解し、残業は非効率という意識を持たなければなりません。
一方、評価が難しいのはテレワークで働く人たちです。
テレワークで働いていると、どこからどこまでが残業なのか線引きが曖昧になります。先ほど例に挙げた、時間とアウトプット量が比例するサポートスタッフのような仕事の場合、その仕事に必要と考えられる時間をかけていて、それが残業時間にかかるならもちろん残業ですが、コンサルタントのような知的労働ではそれがはっきりしません。そのためアウトプットの質と量だけで評価する必要が出てきます。