「仕事だけが人生じゃない!」米国で広がる「静かな退職」 でも、アマゾン、メタなど「大規模リストラ」の波…「そこそこに」働きたい若者は生き残れるか?(井津川倫子)
米IT大手アマゾンが、約1万人の人員削減に踏み切る計画だと報じられています。
先日はフェイスブックを運営するメタが1万1000人以上の社員を削減すると発表したばかり。景気減速が懸念される米国でリストラの動きが広がる一方で、若者を中心に「Quiet Quitting」(静かな退職)がトレンドになっています。
「quit」(退職)をせずに、今の会社で「そこそこに」働くという考え方。果たして、「Quiet Quitting」(静かな退職)は時代を彩る新潮流となるのか、それとも…。
会社は辞めないけど、「給料分以外は働かない」
「Quiet Quitting」(静かな退職)とは、実際に会社を辞めるのではなく、無理せず最低限の仕事だけをこなすというトレンドのことです。
具体的には、働くのは週40時間で残業はしない。仕事とプライベートに線を引いて、就業時間外は仕事の電話やメールには対応しない、など。シンプルに言うと、「給料分以外は働かない」という働き方だそう。
>去年までは、夜中にシステムにトラブルが発生すると、AM2時3時でも電話が掛かってきて、システム対応依頼がきて、パソコンを立ち上げて、汎用機に接続して、トラブル内容を確認して対応することをしていたが、復職した場合、休職の理由であるうつ病治療のため、睡眠薬を飲んでいるという理由で、「夜中は起きられないため対応出来ません」と言えて、楽に仕事が出来るようになる。と、この文章を読んで考えてしまった。
ハードワークで知られる金融業界など、以前は「ガツガツと」働いていた若い世代を中心に、コロナ禍で在宅勤務を経験して価値観が変わり、「静かに辞める」トレンドが広がっている、とされています。
「Quiet Quitting」(静かな退職)というワードは2022年夏、TikTokに初めて登場してSNS上で火がつきました。トレンドの「発祥」となった、オリジナルのメッセージを紹介します。
Quiet quitting
(静かな退職)
Quitting the idea of going above and beyond at work
(仕事でさらなる上や先を目指すという考え方を捨てよう)
Work is not your life
(仕事だけが人生じゃないよ)
Your worth is not defined by your productive output
(君の価値は、生産性だけで評価されるものではない)
なるほど、心身ともに疲れ切ったビジネスパーソンに、グサッと響くメッセージです。とりわけ、歴史的なインフレに直面して物価高に苦しんだり、将来的に家を買うなどの夢が遠のいたりしている若者の心をわしづかみにしたようで、一気に広がっていきました。
オリジナルメッセージに寄せられたコメントを見ると、「私は教師だけど、残業するのをやめてみた。なんて自由なの!」「Quiet quittingいいね!まさに僕が求めていた働き方だ」といった共感の声が続々!
それでも、「Quiet quittingができる職場がうらやましい。誰も仕事を助けてくれる人がいないので、私がやるしかない。仕事が増えるばかりで、へとへとに疲れている」といった生々しい声もあり、複雑な心境になります。
たしかに、「Quiet quitting」ができる環境は限られているかもしれません。でもこれは、一部の恵まれた環境で働く人のトレンドなのか、それともあらゆる業界に広がるのか…。
米国の調査によると、会社のために最大限の努力をする可能性が「非常に高い」と「極めて高い」と回答した従業員の割合は、ほぼすべての業界で昨年に比べて低下しているとか。仕事に対する考え方が「静かに」変化していることは確かなようです。
相次ぐリストラの嵐 「静かな退職ブームはもう終わっている」?
「Quiet quitting」が広がるなか、管理職はその対応に苦慮しているようです。ネットで「how to stop quiet quitting」(静かな退職をやめさせる方法)といった「ノウハウ」を目にするようになりました。
処方箋として挙げられているのは、従業員のモチベーションを上げる取り組みです。たとえば、「会社の長期ビジョンを共有しよう」といったものから、「Stop talking. Start listening」(一方的に話すことをやめて、彼らの話を聞こう)といったアドバイスなど。
なかには、「Take a look in the mirror」(鏡に映った自分の姿を見ろ)など、耳の痛いアドバイスも。つまり、部下が「Quiet quitting」を選んでいるのは、彼らと働くモチベーションを共有できていない上司の責任だ、という苦言です。
「Quiet quitting」がじわじわと広がりを見せるなか、早々と「The era of quiet quitting is already over」(静かな退職の時代はもう終わっている)という分析も現れました。
米国の景気減速が懸念され、アマゾンやメタなど大手IT企業が続々と大規模リストラを発表。アフターコロナの「人手不足」時代は終わり、「売り手市場」から「買い手市場」に時代の波が動いている、という分析です。
米国では、2022年に入り労働生産性が低下していて、その原因が「在宅勤務」や「Quiet quitting」にある、という見方が経営者側に広がっています。
ツイッター社を買収したイーロン・マスク氏が「在宅勤務終了」宣言をしたのもその一環だとされていますが、「quiet quitters」(静かな退職を選んだ人たち)にとって、現状が保証されるとは限りません。
「Quiet quitting」は「さぼり病」だ、と捉える人も多いことから、リストラになったら真っ先にターゲットになりそうです。アマゾンやメタで働いていたような優秀な人たちなら、リストラされても次の職場が見つかるでしょうけど、一般的なビジネスパーソンは失業率が上がったらどうなるのでしょうか。
キャスティングボードを握っているのは、従業員なのか、経営者なのか…。「quiet quitters」対「経営陣」の戦いがどう展開していくのか、その行方が気になります。
それでは、「今週のニュースな英語」は「Quiet quitting」(クワイエットクイッティング)に関連した表現を紹介します。アツアツのトレンドワードですので、覚えておきましょう。
quit(辞める、辞職する)
quiet quitter(クワイエットクイッティングを実践する人)
Quiet quitting is gaining attention
(静かな退職が注目を集めている)
Quiet quitting has started as a TikTok trend
(静かな退職は、TikTokのトレンドとして始まった)
物価は上がるけど給料は上がらない。不動産バブルで持ち家なんて夢のまた夢。あくせく働いて自分を見失うより、プライベートライフを大切にしたい…。米国の若者だけでなく、遠く日本にすむビジネスパーソンにもグイグイ刺さります。
それでも、なかなか減らない仕事量。つい、「Quiet quitting が出来る人は恵まれた人たちなのかな」と思ってしまった私は、時代遅れなのでしょうね。(井津川倫子)