配偶関係別死亡年齢中央値を算出

厚生労働省の「簡易生命表」によると、2020年の日本人の平均寿命は男性が81.64歳、女性が87.74歳だが、この寿命の長さは、男女の違いだけではなく、独身なのか結婚しているのかという配偶関係の別によっても大きく変わるのをご存じだろうか。

つまり、寿命には配偶関係が大きく影響しているのである。

 

2020年人口動態調査の15歳以上の配偶関係別死亡者数のデータから、男女それぞれで配偶関係別の死亡年齢中央値(平均値ではない)を算出すると以下の通りである。死亡年齢中央値ということは、その年齢で半分の50%が死んでいるという意味になる。

 

 

短命な独身男性

男女ともに配偶者と死別した人の死亡中央値がもっとも高く、平均寿命を超える長寿である。一方で、男性では未婚の死亡年齢がもっとも低く、67.2歳で未婚男性の半分は亡くなっていることになる。これはほぼ平均寿命平均と同一値の有配偶男性より14年以上も早い。

 

離別男性も平均寿命を大きく下回り、72.9歳であり、未婚及び離別という独身男性は短命であることがわかる。

ちなみに、2018年時点で算出した時は未婚男性死亡中央値は約66歳だったので、2年で少しは伸びていることになる。

反対に、女性では有配偶女性の死亡中央値が78.6歳と一番低く、女性の平均寿命を大きく下回る。むしろ、未婚で81.6歳、離別でも80.9歳と、女性の場合、独身の方が長生きなのだ。

 

ここからは「一人では生きていけない男・一人だと長生きする女」という構造も見えてくる。

この傾向は決して2020年だけの特殊な事例ではなく、配偶関係別死亡統計のある1980年代からほぼ変わらない。

 

写真:イメージマート

 

50歳以上で見ても?

もっとも、これに対してよく来る反論がある。

「15歳以上の全年齢を対象とした計算では、そもそも若年層は未婚率も高く、ほぼ未婚者なのだから、未婚の死亡中央値が低くなるのは当然である」というものだ。

 

では、生涯未婚率の考え方をとりいれて、50歳を基準として、50歳まで生きた人たちの配偶関係別死亡年齢中央値をみてみよう。

 

 

50歳まで未婚であれば生涯未婚と同様であり、今後配偶関係が変化する確率は低い。同様に、熟年離婚が増えているとはいえ、50歳以上での離婚は全体からすれば低く、今後離婚する見込みもない。

結果を見ると、50歳以上であろうと配偶関係別の死亡中央値順位は変動しない。

 

多少の違いはあっても、50歳以上でさえ未婚男性がもっとも短命である。半数が68歳くらいで死亡している。現在50歳の未婚男性の諸君は、あと残り人生18年なのである。

確かに、戦後まもなくの時代までは若年死亡率が高かったが、今や死亡者のほとんどが高齢者で、若年死亡構成比は低いからだ。

 

年齢別の死亡者数構成比長期推移はこちら

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年金の繰り下げ受給は無意味

最近は、老後生活への関心からか、年金の受け取り時期に関するニュースも多い。政府もしきりに「年金受給開始時期を遅らせる繰り下げ受給がお得」という発信をしている。政府の意をくんだ識者もそんな論をやたら展開している。

 

しかし、これを見る限り、こと未婚男性に限っては、仮に65歳から年金を受け取ったとしても、ほぼ3年程度しか受け取れないし、70歳以降に繰り下げていたら1円ももらわずに天に召されることになる。それならば、むしろ60歳で繰り上げ受給したくもなるというものである。

 

写真:イメージマート

 

もちろん、だからといって繰り上げ受給にしたのに間違って長生きしたとしても当方は一切責任を負わない。

 

独身者は社会のフリーライダーという人がいる。

既婚者の中には「結婚して子どもを産み育てることもしない独身者の老後を自分の子たちが面倒見るのは勘弁してほしい」などという人もいる。

しかし、未婚男性が自分の働いた金で積み立てた年金すらほとんど受け取らずに亡くなるのだとしたら、フリーライダーどころか社会のために身を犠牲にして尽力しているとも言えよう。

 

ところで、女性では、有配偶女性がもっとも短命なのだが、これは結婚生活中の女性は寿命が縮むのだろうか。長生きのためには、有配偶女性は離婚した方がよいのだろうか。

そんなことを考えたくもなるが、決してそうではない。

 

有配偶女性の死亡中央値が低くなるのは、有配偶のまま死亡する女性の総数が少ないためである。大抵の妻は夫より長生きだ。つまり、多くの女性は有配偶のうちには死なず、死別女性として死亡するのである。つまり、結婚しているから女性が短命になるというわけではない。

 

同じ未婚でも男女の寿命格差

実際、有配偶と死別あわせた既婚者群という括りで見れば、既婚女性の死亡中央値は男性を上回る。

 

 

注目すべきは、条件が一緒であるはずの未婚男女の死亡中央値の圧倒的格差である。

 

「いのち短かし 恋せよおとめ」とは、大正時代の有名な流行歌のフレーズであるが、現代は「いのち短かし 恋せぬおとこ」のようである。

 

元来、女性の方が長生きだとしても、既婚男女の差が5年くらいであるのに対して、未婚男女の差が15年以上と大きく違う。というより、未婚女性も既婚男女も長生きなのに、なぜ未婚男性だけ短命なのか?という点である。

 

原因は「恋をしない」からではないのだが、これについては長くなるのでまた別の機会に。

 

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