貧乏な男は淘汰されるのか?動物行動学者・竹内久美子さんに聞く、少子高齢化で絶滅へ向かう日本人の未来=鈴木傾城

私たちは得もすれば社会の常識や固定観念の枠にはまりがちで、そうなったら新しい発想はまったく出てこなくなったりする。そういう時、私のまわりでは「竹内久美子を読め」が合言葉になっている。

それは、なぜか。竹内久美子の本はやたら面白いのだが、その面白さの秘訣は、動物行動学の観点で私たちが想像もしなかったような生き物の深層心理や無意識が次々と「暴かれる」からだ。「えっ、そうだったのか!」という驚きが満載なのである。


ゆえに、発想に行き詰まったら「竹内久美子を読め」となる。その竹内久美子先生にインタビューする機会を頂いた。現代は資本主義の世の中で、男女関係も経済問題を抜きに語れなくなってきている。少子高齢化も進んでいる。そんな社会を動物行動学者としての竹内久美子先生はどのように見ているのか、そのあたりを作家・鈴木傾城が聞いてみた……。(『 鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編 』)


作家・鈴木傾城が「動物行動学」竹内久美子先生にインタビュー

動物行動学で新たな視点が見えてくる

鈴木傾城(以下、鈴木):竹内先生、よろしくお願いします。竹内久美子先生と言えば動物行動学で、男と女の無意識の行動や心理の裏側にどういう意味が隠されているのかを独自の視点で解説してくれる希有な書き手として知られております。実は私も先生の著書は十数年も昔からたくさん読んでいて、読むたびに面白さに悶絶しておりました。

先生の本はどれを読んでも普通の人が何となく「なぜだろう?」と思っていることに、新たな視点と着眼力を与えてくれる内容が多くて、本当にインスピレーションの塊です。最近、先生は『女はよい匂いのする男を選ぶ!なぜ』(刊:ワック)を上梓なさっておりますが、この書籍もまた面白い話が満載で一気に読むのがもったいなくて味わって読んでおりました。

この書籍も「社会的常識より生物学的常識で人間の行動や社会を斬ります!」がテーマとなっているのですが、人間を多面的に知るという意味で「生物学的常識」という視点を持っておくのは役に立つのではないかと思いました。

竹内久美子(以下、竹内):私が著作に込めているのは、「社会的常識はもちろんあって然るべきだが、それだけでは本質は理解できない。生物学的観点を導入することで本質を理解し、いまいち納得できないことや我々を苦しめていることに対する本当の解決が得られるのではないか」ということです。

一例をあげるなら、不妊も繁殖戦略の一部であり、一族に時々不妊の個体が現れることで一族がより繁栄するといったことです。不妊に存在意義が大ありなのです。これがただただ社会的常識のうちにとどまる限りは、自分はだめなんだと一生悩み続けるとか、世間を恨んで生きていくことになるでしょう。

鈴木:さっそく出ましたね!「不妊の個体がいることで一族の子育て協力が進んで、結果的に一族が繁栄することになる」という先生の著書でも触れてある生物学的観点ですね。これは興味深かったです。不妊で悩む女性も多いですが、一族という大きな観点から見ると実は意味があったのだと言うことですが、そういうのは動物行動学という視点がないと分からないことです。

経済状況が人間の結婚や生殖を左右するようになっている

鈴木:ところで、竹内先生。私たちは資本主義の世の中で生きているのですが、最近は本当に世知辛い世の中になってしまって、貧困もどんどん増えていく、格差もどんどん増えていく、経済的な問題で結婚できない若者も社会問題になっていくような世の中です。

先日も「貧困」をテーマにした討論会に出演したのですが、そこでも「貧しいがゆえに結婚できない、結婚しても子どもも作らない社会になっている」と出演者のひとりが話しておりました。経済が完全に人間の結婚や生殖を左右するようになっており、薄ら寒い気持ちになりました。

竹内:経済的な問題が人間の男のモテ、非モテに一番関係するようになったのは、文明化、工業化が起きてからかもしれません。つまり資本主義社会になってからといってもいいかもしれません。

もっとも鳥のオスで質のよい縄張りを構えていると第二夫人を得られるとか、資本主義以前でもお金持ちがお妾さんを囲っているなどという例はありますけれど。やはり資本をもとに会社を興す人々と労働者という対立構造が現れたのは資本主義が現れて以降でしょう。

鈴木:そうですね。マルクスが『資本論』を書いたきっかけもイギリスの産業革命で資本家がますます豊かになって労働者が使い捨てにされて貧困で苦しむのを観察した結果でしたが、ここから「ブルジョア」と「プロレタリアート」の対立構造が可視化されていくようになりましたね。

ふと疑問に思ったのですが、資本主義社会以前はいったいどういう感じだったんでしょうか?


高温多湿だと一夫多妻が多くなっていく?驚きの理由

竹内:だいぶ時間が戻ることになりますが、文化人類学の分野で取り扱われる世界の186の部族というものがあります。有名な文化人類学者のジョージ・マードック(アメリカ)が定めたものです。今でも狩猟採集生活を中心にしているような人々です。

それによると、アフリカの赤道に近い高温多湿の地域では一夫多妻の婚姻形態が占める割合が高く、赤道から離れるに従い、その割合は減っていきます。

鈴木:高温多湿だと一夫多妻が多くなって、赤道から離れると割合が減る……。それはまた面白い現象ですね。何が起きているんでしょうか?

竹内:これは経済的な問題ではなく、病原体に打ち勝つ力が最も重要視された結果です。

鈴木:病原体?

竹内:高温多湿の地域では男は免疫力が高いことが何より大事。経済的に恵まれていても、免疫力が低く、ウィルス、バクテリア、寄生虫などの病原体に弱ければ、その男との間に生まれた子があっけなく死んでしまいます。よって免疫力の高い男に女の人気が集中した結果、一夫多妻の割合が高まります。

こういう世界では普通考えるように、男が財力によって女を集めて一夫多妻になるのではなく、男の人気によって女が集まってきて一夫多妻になります。

免疫力が高い男を女たちはどうやって見抜いているの?

鈴木:なるほど、でも……、免疫力なんか女性が外から見て分かるんでしょうか?そういう男は何か特徴があるのでしょうか?

竹内:あります。それが極めて単純なことに、男としての魅力をいかに備えているかということ、です。つまり顔やスタイルなどルックスがいい、声がいい、筋肉質の体をしている、ケンカが強いなど……。これらは免疫力との相関が強いことが実際の研究からわかっています。

そしてたぶんスポーツができる、音楽の才能がある、話が面白いといったことも、研究するのは難しいかもしれませんが、現実にはっきりと男の魅力となっているので、免疫力との相関があるはずです。

鈴木:スポーツはともかく、音楽も免疫力と相関があったんですか!そう言えば、よくよく考えてみれば歌ったり踊ったりすることも身体能力が高いことの証明ですよね。

竹内:ミュージシャンはやたら女にモテるので、おそらく音楽の才能と免疫力との間に相関があると思います。

オリンピックなどでアフリカ勢の身体能力をいやというほど見せつけられ、音楽の世界でもアフリカにルーツを持つ人々の音楽のセンスや能力に脱帽しますが、それは彼らが長らく病原体の脅威にさらされつつ生きてきたから。女が病原体に強い、免疫力の高い相手を、スポーツや音楽の能力を手掛かりに選んできたからでしょう。その過程を通じて、それらのレベルが圧倒的に高まったのです。

鈴木:なるほど、そういうことだったのですね。面白い視点です。


収入を増やすことに関心のない男性が淘汰されるわけではない?

鈴木:現代の資本主義社会でも魅力的な男性は依然としてモテますが、そこに財力があるかないかも深く関わって来るようになってきています。

しかし、収入を増やすことに関心のない男性も多いです。婚活の現場でも年収が低い男性は最初から相手にされない現象もあります。そうすると、生物学的常識ではそういう男性は今後も結婚のチャンスはほとんどないし、子どもを残すチャンスもなくて社会から淘汰されてしまうことになるのでしょうか?

竹内:では資本主義社会で財力のない男がどう繁殖すべきか。確かに財力のある一部の男に繁殖の機会が集中することでしょう。

しかし繁殖とはちゃんと結婚してからするとは限りません。たとえば財力はないが、男として魅力があれば、ヒモ男として生きるとかお金持ちのマダムの浮気相手といった繁殖の道も開かれます。ちなみにヒモ男こそが男としての魅力を最も必要とする最難関の繁殖戦略だと思います。

鈴木:なるほど。財力がなくてもワルっぽい男はそれだけでモテますが、あれは別の方面からアプローチしているということなのですね。

少子高齢化で大和民族は滅ぶのではなく変わっていく?

鈴木:ところで繁殖と言えば、日本はいま世界でも最悪の少子高齢化が進んでいて、今後も20年かけて高齢者はどんどん増えていく一方で子どもの数は減る一方です。大和民族はまるで繁殖をあきらめてしまった民族のように見えてしまいます。先生の目から見ると、この現象というのはどう考えておられますか?

竹内:私は生物学を学ぶことで、こういう局面がどう展開していきそうか、ある程度予測することができます。多くの人々が憂うように、少子化が進んで日本人がいなくなるというよりも、日本人を構成する人々の面子の割合が変わるほうへ進むのではないか、と。

鈴木:日本を構成する人々の面子の割合……というのはどういう意味でしょうか?

竹内:今、子どもを育てることが難しいからと繁殖を諦めている人々というのは、子どもを一人育てあげるにはこれこれこれくらいの費用がかかるという見積もりをもとに、それは大変なことになる、やはり子は諦めるべきなのかと真面目に将来を考える人々でしょう。

鈴木:そうですね、現実を見回すとそのようになっています。

竹内:しかし中にはそんなことを気にせずにどんどん子を産み、一人一人の子にあまり投資することなく育てあげてしまうというタイプの人々もいます。結局、後者のタイプの人々がよく繁殖することになり、将来的には真面目で悲観的な人々よりもそういうタイプの人々の割合が増えるという結果になるのではないかと思います。

鈴木:なるほど、そういう意味なのですね。少子化で日本人がいなくなるというよりも、むしろ「日本を構成する人々の面子」が変わってしまうということですか。確かに、言われてみたら納得です。ということは将来の日本人は、今のように将来をよく考える人たちよりも、ある意味、思い切りが良い日本人に置き換わっていくということですね。いろんな意味で、日本は「今と違った国」になってしまいそうです。


国がおかしな方向に走らないためには何が必要なのか?

鈴木:日本が今と違う国になってしまうのであれば、良い方向に変わって欲しいと思います。そう言えば先生の『女はよい匂いのする男を選ぶ!なぜ』では、最終章に国がおかしな方向に走らないためには「長い時を経て熟成された伝統や文化という『集合知』こそ重視すべきだ」というエドマンド・バークの主張を引用されておられるのが印象的でした。

竹内:そういう意味では子ども一人育てるのにいくらお金がかかるかなどと考えずに繁殖する人々というのは、伝統主義とは相性の良い人たちではないかと思います。

下手に〝教養〟がある人というのは伝統や昔ながらのやり方を軽視する傾向があるのではないでしょうか。その場合の教養とは書物やメディアを通して得られるような教養です。しかもそういうものは偏向しているとか意図的であるとか、何か本質からはずれていることも多いと思います。

鈴木:なるほど、最近はマニュアル的な、ノウハウ的な、何となく底の浅い〝教養〟が蔓延していますね。

竹内:それに対し、特に勉強するわけでもなく、自然に存在し、子どものころから自然と身についてくるような教養や伝統や文化こそが本物の集合知だと思います。

集合知というのは無名の大勢の人々が知恵を出し合い、ああでもない、こうでもないと長い年月をかけて検討し、築き上げてきた実用的な知恵や真実のようなことです。

たとえば戦後教育で施された自虐史観に染められ、日本は悪い国、日本人は謝らなければならないなんて本気で思っているのは、学校でお勉強ができて、人格も立派な人に多い気がします。

鈴木:そうですね。戦後の学校教育は日本の伝統・文化・歴史を否定するような思想がことさら散りばめられていて、教科書自体が危険なものになっておりますよね。教科書自体が歪んでおりますから、そんな教科書をしっかり覚えた秀才ほど歪んだ思想に染まってしまいますね。

竹内:その点、学校の勉強などつまらないからしない、実世界でもまれていくというタイプはそのようなまやかしに影響されません。私はいわゆるヤンキーと言われる人たちに期待しているんです。

鈴木:ヤンキーですか!昔の言葉で言うところの不良少年ですよね。

竹内:そうです。不良というけれど実際には優良なのです。本当の意味で頭がいい。しかも女にモテる。男がよく言う「あいつ、すげー不良だぜ」という男は頭もよくて女にもモテるタイプです。嫉妬心からそう言ってしまうのでしょう。

不良は私の周りには少ないので「ええっ」と言われますが、学歴や肩書に頼ることのない彼らこそ人間の原型であるし、日本を救う原動力になりうる人々だと思っています。


動物行動学研究家は「自分」をどう理解している?

鈴木:難しい問題にお答え頂きありがとうございます。先生は今度、『66歳、動物行動学研究家。ようやく「自分」という動物のことがわかってきた。』(刊:ワニブックス)という本を上梓されるということなのですが、私も含めて先生が自分をどのように見つめているのか興味もあります。どんな感じの内容なのか、少しだけチラリと教えて頂ければ嬉しいです。

竹内:私は表面的な履歴とは異なり、挫折、挫折の人生でした。特に組織に属すると必ずいじめの対象になります。なので、一般的な職についたとしても、絶対に職をまっとうできなかったと思います。その私がいかにして現在の職業につくことができたのかということがまず一つ。

鈴木:はい。

竹内:それから動物行動学を学ぶことでふつうとは違う世間の見方ができるようになりました。初めのほうで挙げた不妊の例など、一般的な見方ではとうてい解決しそうにないことも、この学問を学ぶことで根本的な解決を見出すこともできます。

私が動物行動学を愛する理由はそのようなところにあり、実例をいくかあげることで、どんな方にも必ず何らかの救いの道を示すことができると思います。

鈴木:そうですね。動物行動学を基準にして世の中を見ると、まったく違う多面的な見方が現れてきて驚くことが多いです。

私が竹内先生の著書が大好きなのも、まさに「まったく違う発想」がたくさん散りばめられていて、常識を打破されるからなんですよね。本日のお話でも、普通とは違う発想であったと思います。先生、本日は、どうもありがとうございました。

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