第14回 心の文化差

第14回 心の文化差
社会心理学に限らず、心理学では、人間の心の働きは、国、文化によらず、普遍的だと考えてきた。しかし近年では、かなり本質的な部分で、東洋人と西洋人の心の働きが異なる可能性が指摘され、心の普遍性が疑問視されるようになってきた。このような疑問の根拠となる心の文化差についての研究を紹介しながら、文化と心の働きとの相互作用について考えていく。
【キーワード】
心の普遍性、分析的思考、包括的思考、相互独立的自己観、相互協調的自己観、文化心理学


1.心の普遍性への疑問

人間の心のしくみや働きは、文化や生活環境に関係なく、普遍的なものだと考えられてきた。

2.認知と思考様式における文化差

(1)分析的思考と包括的思考

リチャード・ニスベット 西洋人と東洋人では世界観や自己観が本質的なレベルで異なっており、それが認知や思考の様式にまで違いをもたらしているとしている。

1980年 人間の推論 人間一般がどのように推論を行うのにどのような方法を用いるのか。

心の普遍性に対する疑問
その本のタイトル「人間の推論」は、まさに私の思いを端的に表したものだった。それは、これが決して西洋人の推論ではなく(そしてもちろんアメリカ人大学生の推論でもなく)、「人間の」推論だという思いである。この本は、あらゆる人々が世界を理解するうえで用いる推論の規則とはどういうものかを、誤った判断を生じさせてしまうような不完全な規則を含めて私なりに論じたものだった。(Nisbett,2003)

認知と思考様式における文化差

・分析的思考 西洋人のものの見方 人や物といった対象を認識する際、何よりも対象そのものの属性に注意を向け、カテゴリーに分類することによって、対象を理解しようとする考え方。

・包括的思考 東洋人のものの見方 人や物といった対象を認識する際、その対象をとりまく「場」全体に注意を向け、対象とさまざまな場の要素との関係を重視する考え方。

 

(2)物の認知における文化差

日本人の情報処理が文脈依存的であることを示唆している。

再生課題

再認課題

Recall(再生)とは何のヒントもなく自力で思い出すことです。 それに対してRecognition(再認)は以前見たものを再び確かめることです。 よって例えば先生から質問をされたとき何も見ずに答えられれば再生が行われたことになり、答えられず解答を聞いて思い出したら再認ということになります。2012/02/12

(3)人の認知(対人認知)における文化差

他者の感情を推測する際の注意の向け方

中央の人物の感情推測に周囲の人物の表情が影響する傾向が見られた。

視線追跡装置(アイ・トラッカー)

日本人では、周辺の人物にも視線が送られていたが、欧米人では中央の人物に集中していた。

西洋人では、感情は個人のものであるが、日本人にとっては集団の感情と切り離すことはでないものとみなされいると考える。

(4)原因帰属の文化差

東洋人は西洋人に比べ、文脈を加味した包括的な捉え方をしていることを示唆している。

3.自己における文化差

自己概念、自尊感情

(1)自己概念における文化差

相互独立的自己観  西洋人の自己の捉え方 相互独立的自己観(independent construal of self)は、 西洋文化において共有されている自己観であり、自己は 他者や周囲のものとは区別された実体であると理解され ているため、主体の能力や性格や才能などの個人的属 性により定義される。

相互協調的自己観  東洋人の自己の捉え方 東洋文化において共有されている自己観で あり、自己を社会的ユニットの構成要素の一部として、関 係志向的な実体ととらえている。 つまり、自己の定義は状 況やその場の他者によって異なる。

自己概念

(2)自尊感情における文化差

セルフ・サービング・バイアス 成功は自己の内的属性、失敗は外的状況に帰属する、自己観ゆえのバイアスだと考えられる。日本人では、逆のことがある。

自己高揚動機 人間一般に見られる普遍的動機ではあるが、日本人では弱い。

自己呈示

自尊感情(潜在的自尊感情) 潜在感情(第5回) 日本人でもアメリカ人に引けを取らないくらいにある

ローゼンバーグの自尊感情尺度(第6回) 日本人は低く現れる。謙遜することが社会的に好ましい。

4.文化心理学

文化と人の心との間にあると想定される密接な関係性を追求する学問分野

相互構成の継時的ダイナミックス


木を見る西洋人 森を見る東洋人―思考の違いはいかにして生まれるか

 

内容説明

文化によって世界観が変わっても、人間がものを考えるために用いる道具は同じだと誰もが思っている。肌の色や国籍、宗教が違っても、ものごとを知覚したり、記憶したり、推論したりするために用いる道具は同じである。論理的に正しい文章は、日本語であれ英語であれヒンズー語であれ、正しいことに変わりはない。同じ絵を見ている中国人とアメリカ人がいれば、彼らの脳裏に映る画像は当然同じものである。だが、もし、すべてが間違っているとしたら?本書は、東洋人と西洋人の心や思考のかたちが文化によっていかに違うか、その違いはなぜ生じるのかを科学的に解明する。「世界についての考え方は根本的にひとつである」とする認知科学の大前提に挑戦した知的興奮の書である。

目次

序章 世界に対する見方はひとつではない
第1章 古代ギリシア人と中国人は世界をどう捉えたか
第2章 思考の違いが生まれた社会的背景
第3章 西洋的な自己と東洋的な自己
第4章 目に映る世界のかたち
第5章 原因推測の研究から得られた証拠
第6章 世界は名詞の集まりか、動詞の集まりか
第7章 東洋人が論理を重視してこなかった理由
第8章 思考の本質が世界共通でないとしたら
エピローグ われわれはどこへ向かうのか

著者等紹介

ニスベット,リチャード・E.[ニスベット,リチャードE.][Nisbett,Richard E.]
エール大学助教授、ミシガン大学准教授を経て、現在ミシガン大学心理学教授(セオドア・M・ニューカム冠教授)。アメリカ心理学会科学功労賞、アメリカ心理学協会ウィリアム・ジェームズ賞、グッゲンハイム・フェローシップ受賞。2002年、同世代の社会心理学者として初めて全米科学アカデミー会員に選ばれる。ミシガン州アナーバー在住

村本由紀子[ムラモトユキコ]
1999年、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(社会心理学)。スタンフォード大学客員研究員、京都大学助手、岡山大学助教授を経て、現在、横浜国立大学経営学部助教授。専門は社会心理学・文化心理学
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。


枠と線課題(Framed Line Test:FLT)

絶対的判断課題、相対的判断課題

 

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