第12回 検査法

心理学研究法(’20)

Psychological Research Methods (’20)

主任講師名:三浦 麻子(大阪大学大学院教授)

【講義概要】
心理学の諸領域で用いられている基礎的な研究法について講義する。学習者が自らテーマを設定して研究を計画し、一連の科学的実証手続きを経てそれを遂行できるようになることを目指して、心理学の研究者・実践家としての心構えを含めて、スキルとテクニックを教授する。

【授業の目標】
心理学の諸領域で用いられている基礎的な研究法を学び、それらをふまえて自らテーマを設定して研究を計画し、収集したデータを分析・考察するという一連の科学的実証手続きを遂行するためのスキルとテクニックを習得することを目指す。

第12回 検査法

検査法の歴史および目的について学ぶとともに、知能検査やパーソナリティ検査のうち、代表的な検査の特徴について理解する。そして研究への応用を念頭に、検査法の実施上の留意点と倫理的課題について学ぶ。

【キーワード】
知能検査、パーソナリティ検査、投影法、テストバッテリー


演習問題

心理検査と仮説的構成概念との関係性について説明しましょう。

心理検査とは、人がもつ何らかの心理学的な側面をある物差しを使って測定する方法である。臨床心理では、パーソナリティ、不安、抑うつ、知能、態度など測定しようとするその側面は、いずれも実態としては存在しておらず直接的に観察することもできない仮説的構成概念である。そのため、何らかの心理学的な側面が何であるか見立てを行い、測定対象となる何らかの心理学的側面が正しく測定できているか証明することが必要である。

初めの見立て時に、どのような状態にある患者なのかを把握し、適切な心理検査を実施し、妥当性や信頼性を高めるために複数の心理検査を用いる作業が必要となる。


投影法に関する説明文として正しいものを次の①~④の中から一つ選べ。

① 投影法では被検者はどのように反応するかが予め決められており,質問紙法のような回答における反応の自由度は少ない。

② 投影法で用いられる物理的刺激は可能な限り漠然とした曖昧なものの方が相応しいとされている。

③ 投影法では被検者が意図的に自分を良く見せよう(偽陰性)としたり,悪く見せよう(偽陽性)としたりする反応が出現しやすいとされている。

④ 投影法の代表格であるロールシャッハテストは,特定の解釈法が定められており,検査者はその方法に基づき,実施と解釈を行うよう求められている。

フィードバック
正解は②です。

【解説/コメント】

投影法は反応が選択法となっている質問紙法とは異なり,図柄などの特定の物理的刺激に対する反応の自由度は極めて高いものとなっています。しかしながら,反応の自由度が高い分,標準化が困難であることや,解釈には熟練した技術が必要とされています。

投影法で用いられる物理的刺激が明確で具体的なものであった場合,被検者が所属する社会や文化に特有の反応を引き起こし,被検者本人だけがもつ内的世界を表すことに繋がらないと考えられることから,解釈が幾らでも導き出されるような曖昧な刺激の方が相応しいとされています。

③質問紙法と異なり,投影法の場合には被検者は自由に反応することが求められるだけなので,検査者の意図を推し量ることは難しく,偽陰性や偽陽性のように回答を偏向させることは困難だと考えられています。

ロールシャッハテストの解釈法には,片口法,クロッパー法,エクスナー法などの他,複数の解釈法が存在しています。そのため,検査者は解釈法を選択するだけでも,実施上の検討が求められます。


心理検査の理論や実践に関する説明文として正しいものを次の①~④の中から一つ選べ。

① 心理的支援を求めてきたクライエントに対しては,どのような心理的状態なのかを把握するために,まずは最初に心理検査を実施し,その情報を基に当該のクライエントに関する見立てを形成していく。

② 心理的支援を求めてきたクライエントに対しては,本人の心理的状態を測定するのに最も相応しいと考えられる心理検査を一つ選んで実施し,見立てを行うようにする。

③ 心理検査のフィードバックにおいては,用いられている具体的検査項目の意味とその反応について,被検者の理解に沿って詳しく説明しなくてはならない。

④ 心理的支援を求めてきたクライエントに心理検査を実施する場合には,臨床心理的介入を行う時と同様に,本人に対して説明を行い,同意を得る必要がある。

フィードバック
正解は④です。

【解説/コメント】

①心理的支援を行う際に一番初めに行われるのは心理面接や行動観察です。そこでの情報を基に,ある程度の見立てを行い,その見立ての内容に基づき,クライエントのどのような心理的事象を測定するかを決めて,それに合致した心理検査を選択・実施することになります。

②クライエントを理解し問題を見立てるためには,ある一部分の心理的事象を測定するだけでは不十分です。本人の状態を把握するための心理検査を複数選び実施する必要があります。こうした心理検査の組み合わせをテストバッテリーと呼び,心理アセスメントにおいて必須の作業となっています。

③心理検査の結果についてクライエントの理解に沿って説明することはとても重要なことですが,具体的検査項目とその反応を説明することは心理検査のネタバラシになるので,行ってはいけません。あくまでも検査結果から見えてきたその人の心理的特徴を説明する姿勢でフィードバックを行う必要があります。

④心理検査の実施においても,その目的や内容について事前に説明し,同意を得ておく必要があります。こうした作業はインフォームド・コンセントと呼ばれており,対人援助において必須のこととされています。心理検査の実施に際しても決して無理強いすることなく,本人の納得のもとで行われなくてはいけません。

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