第1回 錯覚への招待

うずまきを指でたどってみてください。中心までたどりつけましたか?

中心まではたどりつけないのです。なぜなら、うずまきではなく、同心円だからです。

錯視をおこしているのは、円の模様です。よくみてみると、白と黒のパターンが、ねじれたヒモのように描かれています。そのため、この円の模様は、「フレイザーのねじれたヒモ」と呼ばれています。

第1回 錯覚への招待

私たちが認識している世界は、客観的な現実世界のあり方と正確に対応しているわけではない。それは、いわば、脳の中で無意識のうちに再構成された世界である。そこには、さまざまな「人間らしい」錯覚が生じてくる。初回は、これから学ぶ錯覚の世界について概観するとともに、錯覚の理解に必要な基礎知識を修得する。

【キーワード】
心理的錯覚と物理的錯覚、認知、感覚、知覚


1.私たち自身が作りあげている錯覚

米国マサチューセッツ工科大学のエドワード・エーデルソン教授により発表されたチェッカーシャドウ

タイルAとタイルBを比べてください。Aはチェッカーボードの黒いタイル、Bは白いタイルに見えます。つまり、AとBの明るさはあきらかに違って見えるのです。

しかし、驚いたことに、AとBはまったく同じ明るさです。

「人は高度な情報処理を気が付かないうちに行なっている。私達の意識は、その結果のみを受け取る存在である。」

ログヴィネンコ錯視

AとBではどちらが明るい?

AとBのひし形の明るさは全く同じです。

ジャストロー錯視

上と下の図形では、どちらが大きく見えますか?

ダイヤモンド錯視

これは、一つ一つのひし形が、
上下部の角度が30度から40度で軽くグラデーションがかかっていて、
このひし形が隣接すると、人の目は一つの一つの点に反応し、
上のひし形と、下のひし形がまるで別の色のように見えてしまうからだとか。

2.錯覚という現象を理解するために

(1)錯覚とは何か

錯覚(illusion)

錯覚(さっかく、: illusion)とは、感覚器に異常がないのにもかかわらず、実際とは異なる知覚を得てしまう現象のことである。対象物に対して誤った感覚や認識を得るのが錯覚であり、存在しない対象物を存在すると見なしてしまう幻覚とは区別される。

一般に、錯覚は知覚の誤りと考えられていて、感覚・知覚・認識過程のどこかの部分がミスしたことで生じる、と認識されている[1]。しかし、心理学でいう錯覚とは、間違いや誤りの類いでは無い。注意深く観察しても、予備知識があっても生じてしまう、人間の感覚・知覚特性によって作り出される現象を指す[1]

・物理的 蜃気楼・逃げ水・ドップラー効果

・生理的 プルキンエ現象・明順応暗順応・残像

・知覚的 恒常性・立体視・視覚的保管

・認知的 認知バイアス・思い違い・勘違い・変化盲・フォールスメモリ

感覚・知覚・認知 一連の流れと役割を解説

錯覚はその原因により大きく4つに分けることができる。

不注意性錯覚
対象物への注意が不十分のために起こる錯覚。見間違い、聞き違い、人違いなど、われわれが日常経験する多くの間違いを含んでいる。
感動錯覚
暗くて怖い場所を歩いていると、物の影が人影に見えたり、何でもない物音を人の気配に感じることがある。恐怖や期待などの心理状態が知覚に影響を与えるものである。
パレイドリア
雲の形が顔に見えたり、しみの形が動物や虫に見えたりと、不定形の対象物が違ったものに見える現象に代表される。対象物が雲やしみであることは理解しており、顔や動物ではないという批判力も保っているが、一度そう感じるとなかなかその知覚から逃れられない。熱性疾患の時にも現れやすい。
生理的錯覚
数多く知られている幾何学的錯視や、音階が無限に上昇・下降を続けるように聞こえるシェパード・トーンなどのように、対象がある一定の配置や状態にあると起こる錯覚。誰にでもほぼ等しく起こる。

(2)錯覚の科学のための用語の理解

認知(cognition)

知覚(perception)

感覚(sensation)

認知的錯覚

錯誤

3.錯覚の科学で広がる世界

(1)知覚の錯覚のおもしろさ

運動の錯覚 実在しない動きを知覚する。

奥行き知覚 脳は、網膜像や知識を材料として、三次元の世界を再構築している。

(2)五感の錯覚

視覚誘導性自己運動感覚(ベクション)  視野の大部分に一様に動くもの、例えば壁全体が動いているような状況を見ると、動いていない自分自身の方が動いているように感じます。 この現象のことをベクションと呼びます。 簡単にいえば、自己移動の錯覚です。 例えば発車前の電車の座席に座っている時、対面の電車が動き出すと、自分の乗っている電車が動いたと感じることがあります。

(3)思い込みとしての錯覚

(4)文化や社会の中の錯覚

詐欺

悪質商法

カルト・マインドコントロール

トリック・アート

(5)錯覚があってこその人間

対人認知、自己認知に現れる一種の錯覚

周囲の人々の言動を、どう受けとるか、どう受けとるのが正確なのか、それは人により違う。

ポジティブ・イリュージョン ポジティブ・イリュージョン(positive illusion:以 下 PI とする)とは,自己高揚的動機に基づく様々な 認知バイアスのことであり, 実際に存在する物事を, 自分に都合良く解釈したり想像したりする精神的イメ ージや概念 と定義される(Taylor & Brown, 1988)。

ネガティブ・イリュージョン(抑うつリアリズム)

第6回 自己概念と自尊感情

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