第1回 犯罪心理学・非行臨床

司法・犯罪心理学(’20)

Forensic and Criminal Psychology (’20)

主任講師名:廣井 亮一(立命館大学教授)

【講義概要】
公認心理師法における「司法・犯罪分野」の要点を踏まえて、少年事件、刑事事件、家庭紛争事件の3部で構成する。
第1部は、司法における犯罪心理学、非行臨床をもとに少年事件を取り上げる(第1回~第4回)。第5回では犯罪者・非行少年の更生に関わる専門家の活動を紹介する。
第2部は、児童虐待、高齢者虐待、離婚と面会交流などの家庭紛争事件、さらに体罰問題など学校に関わる問題への対応を解説する(第6回~第9回)。
第3部は、攻撃性をもとに犯罪の4類型を理解したうえで、ストーカー犯罪、凶悪事件の精神鑑定例、犯罪被害者への贖罪を取り上げる。また、司法における心理臨床家の活動も紹介する。最後に現在の司法の潮流である司法臨床、治療的司法、加害者臨床をもとに、司法・犯罪心理学の展望と課題を解説する(第10回~第15回)。

【授業の目標】
公認心理師法における「司法・犯罪分野」の要点である、少年事件、刑事事件、家庭紛争事件の3部門を学ぶ。そのうえで司法の枠組みを踏まえた、少年への非行臨床、成人への加害者臨床、家庭事件への家族臨床の展開を理解することを目的とする。

【履修上の留意点】
新聞等で少年や成人の事件、家庭での虐待事件等の報道を読み、現代の少年非行、成人犯罪、家庭事件の特徴を考えておく。さらに、講義で関心をもったテーマを各自でさらに深く学ぶこと。

各回のテーマと授業内容
第1回 犯罪心理学・非行臨床

・成人の犯罪と少年の非行の違いについて、刑事司法と少年司法の手続きの流れをもとに、犯罪/非行の意味、裁判/審判の目的、当事者性、犯罪/非行の捉え方等を解説する。
・「非行少年」、「犯罪少年」、「虞犯少年」の違いを説明したうえで、それぞれの少年への関与、更生のための援助などのアプローチを講義する。
・少年非行への対応の基本的姿勢を少年法1条をもとに明示する。

【キーワード】
刑事司法、少年司法、非行少年、犯罪少年、非行臨床、少年法第1条

執筆担当講師名:廣井 亮一(立命館大学教授・放送大学客員教授)
放送担当講師名:廣井 亮一(立命館大学教授・放送大学客員教授)


はじめに

犯罪心理学とは、司法の手続に沿って言えば

1.警察のプロファイリングなどの犯罪捜査や取調べに関する心理

2.地方裁判所における刑事裁判での証言心理、自白心理、精神鑑定などの裁判心理

3.家庭裁判所における調査や審判における少年の心理

4.刑務所、少年院などにおける犯罪者と少年への矯正、更生のための臨床的アプローチ

5.社会における犯罪・非行の予防

6.犯罪被害者に対する心理的支援

 

犯罪と非行と犯罪者・非行少年の心理臨床的観点からすれば

7.犯罪・非行を起こすまでの心理プロセス

8.犯罪・非行の行為の意味

9.加害者ー被害者の関係と贖罪

などについて加害者や被害者の語りをもとにした心理的研究である。

最近の動向として

10.薬物犯罪、性犯罪などに特化した問題解決型裁判の研究

11.犯罪者、非行少年の更生のための治療的司法や司法臨床など加害者臨床が含まれる

 

1.犯罪と非行

(1)犯罪

(2)非行

2.「非行少年」とは

・犯罪少年

・触法少年

・虞犯少年

3.刑事司法と少年司法

(1)刑事司法

(2)少年司法

4.犯罪・非行理解の方法

5.非行臨床

6.少年非行への対応の基本的姿勢


第1回 犯罪心理学・非行臨床

・成人の犯罪と少年の非行の違いについて、刑事司法と少年司法の手続きの流れをもとに、犯罪/非行の意味、裁判/審判の目的、当事者性、犯罪/非行の捉え方等を解説する。
・「非行少年」、「犯罪少年」、「虞犯少年」の違いを説明したうえで、それぞれの少年への関与、更生のための援助などのアプローチを講義する。
・少年非行への対応の基本的姿勢を少年法1条をもとに明示する。

【キーワード】
刑事司法、少年司法、非行少年、犯罪少年、非行臨床、少年法第1条

第2回 少年犯罪の現状

・近年の非行と非行少年の特徴について、少年犯罪の構成比、人口比などで確認したうえで、特に2000年以降のネット社会化が青少年の犯罪に与えた影響を説明する。
・少年犯罪は凶悪化しているのか検討する。
・非行少年に通底する心性や行動を説明したうえで、非行少年にアプローチするための要点を提示する。

【キーワード】
少年犯罪の構成比、人口比、ネット社会化、凶悪事件、非行少年の特徴

第3回 少年非行の歴史的推移

・少年非行を1945(昭和20)年から2018(平成30)年までの歴史的推移で捉えることによって、「少年非行はその時代を映し出す鏡」であることを解説する。
・戦後の少年非行の大きな転換点である1983(昭和58)年と2000(平成12)年にどのような社会的変化があったのか明示する。
・非行少年と非行集団の臨床像の変質を説明する。

【キーワード】
貧困型非行、反抗型非行、学校型非行、よい子の非行、ネット型非行、生徒間暴力型非行

第4回 いじめ問題

・いじめの歴史的変遷をたどりながら、いじめ防止対策推進法の制定に至るまでのいじめ問題を解説する。
・いじめ防止対策推進法のいじめの定義を説明する。
・現代型いじめの特徴を理解したうえで、その対策と防止策を提示する。

【キーワード】
いじめ防止対策推進法、現代型いじめ、けんか、学校

第5回 犯罪者・非行少年の更生に関わる専門家

・犯罪者や非行少年の更生に関わるさまざまな専門家とその関与の方法を説明する。
・非行少年の更生の要点を家庭裁判所の「補導委託による試験観察」の事例を通して具体的に説明する。

【キーワード】
法律事務所、弁護士、公認心理師、警察、民間刑務所、試験観察、補導委託

第6回 家庭事件と司法

・夫婦関係、親子関係、親族関係の問題に対する司法の関与について、家庭裁判所の家事事件をもとに解説する。
・家庭の紛争や問題解決のために、なぜ法と臨床のアプローチが必要なのか説明する。
・憲法はわが国の家族にどのようなことを要請しているのか、家族法をもとに説明する。

【キーワード】
日本国憲法、家族法、家庭裁判所、家事事件

第7回 児童虐待と高齢者虐待

・児童虐待とはどのような行為なのか、児童虐待防止法の定義を説明する。
・児童虐待に対する臨床・福祉的な対応を前提にした援助について解説する。
・高齢者虐待と児童虐待の対応の基本的な違いを説明する。
・高齢者虐待と介護問題について解説する。

【キーワード】
児童虐待、児童虐待防止法、高齢者虐待、高齢者虐待防止法、家族臨床

第8回 離婚紛争と子ども

・日本の離婚の現状と離婚の制度を解説する。
・少子社会における、離婚に伴う親権者の決定について説明する。
・面会交流の意味と子どもの発達に応じた面会交流について説明する。

【キーワード】
離婚、親権、面会交流、子どもの心の傷

第9回 学校問題と司法-体罰問題と保護者対応

・体罰と懲戒の違いを理解したうえで、懲戒行為が体罰に陥らないための留意点を提示する。
・学校における対応困難な保護者問題について、いわゆるモンスターペアレントへの対応を通して検討する。
・保護者対応の基本である傾聴と事実の調査の方法を説明する。
・学校の問題解決のための法と臨床の協働を提示する。

【キーワード】
体罰、懲戒、モンスターペアレント、事実の調査

第10回 司法臨床-法と心理臨床の協働

・法と心理臨床の協働=「司法臨床」の概念を解説する。
・法的枠組みと心理臨床的枠組みを説明する。
・地方裁判所と家庭裁判所の基本的な違いを説明する。

【キーワード】
司法臨床、法的枠組み、心理臨床的枠組み、法と臨床の協働、地方裁判所、家庭裁判所

第11回 加害者臨床

・非行少年や犯罪者など加害者に対する臨床の要点を提示する。
・少年非行の類型に応じた、法と臨床の両軸による理解と対応の仕方を説明する。
・犯罪や非行の更生に向けた動機づけと暴力行為の阻止について、法と臨床による介入の方法を説明する。

【キーワード】
反社会的問題行動群、不特定対象型問題行動群、非社会的問題行動群、親密圏型問題行動群、オーディールセラピー、リアリティセラピー

第12回 ストーカー犯罪

・ストーカーとは何かについて、ストーカー行為等の規制等に関する法律によって解説する。
・ストーカー対策の現状と課題について、警察が対応した100ケースの質的分析をもとに検討する。
・ストーカーの「怨み」と「恨み」の違いを踏まえたうえで、それぞれのストーカー行為への対応を説明する。

【キーワード】
ストーカー、ストーカー行為等の規制等に関する法律、つきまとい等、ストーカー行為、「怨み」と「恨み」

第13回 精神鑑定をめぐって

・精神鑑定には、責任能力鑑定、情状心理鑑定などがあることを提示したうえで、その違いを事例を通して説明する。
・刑事裁判における当事者主義法学と治療法学による司法観の違いを解説する。
・刑事裁判において、法律家(裁判官、弁護人、検察官)、当事者(被害者、加害者、それぞれの家族)に対する説明責任について説明する。

【キーワード】
責任能力鑑定、情状心理鑑定、犯罪動機、治療的司法、説明責任

第14回 犯罪被害者と贖罪

・犯罪被害者に対する加害者の贖罪とは何かについて解説する。
・加害者が贖罪を成し遂げるためのプロセスを提示する。
・犯罪被害者の苦しみを理解する。

【キーワード】
贖罪、犯罪被害者、ライフストーリー・インタビュー

第15回 司法と犯罪心理学・非行臨床の課題と展望-司法における「人」の復権

わが国の司法において大きな潮流となっている司法臨床と治療的司法を講義する。それは従来の司法からの脱皮でもある。司法的機能をいかにして臨床的に活用するか、刑事裁判をどのようにして問題解決型裁判所として機能させるか、について考える。以上をもとに、これからの司法・犯罪心理学・非行臨床の展望と課題を述べる。最後に、非行少年と「悪」について論じる。

【キーワード】
当事者主義的司法、治療的司法、司法臨床、問題解決型裁判所、悪理学

Pocket
LINEで送る