生物学者・池田清彦さん(75才)に学ぶ頑張らない生き方「生物学的には40才を過ぎたら余生」

 医療制度の充実や栄養バランスに優れた和食文化のおかげで健康長寿となった日本人。1980年と2021年を比べると日本人の平均寿命は男性で約4年、女性で約6年も長くなっている。バラエティ番組でおなじみの池田清彦さんは、野生の生き物から気づいた長寿社会を生きるヒントをこう語る。

【画像】池田晴彦さん「類人猿は40才以降は余生だが、しかしワニは100才でも卵を産む」

◆池田清彦さん「40才以降の人生なんてオマケみたいなもの」

 日本人の平均寿命は、男性81・47才、女性87・57才。人生100年時代は、生物学の視点から見れば異様な状況だという。

「野生動物の寿命は、生殖能力がなくなったとき。ワニは100才以上でも卵を産めるから150年生きることがあるけれど、類人猿はチンパンジーもゴリラもネアンデルタール人も寿命はだいたい40年。本来の野生動物の基準からすると、人間の自然寿命も同じくらい。そう考えると、40才以降の人生なんてオマケみたいなものですよ(笑い)」(池田清彦さん・以下同)

 生物の中で人間の寿命だけが驚異的に延びたのは医療の進歩のたまものだ。

「とはいえ寿命には限度がある。世界で最も長く生きたのはフランス人のジャンヌ・カルマンさん。1997年に122才で亡くなった。以来、この記録は破られていない。だから今後、どれだけ医学が発展しても120才が限度なのだと思いますし、本来は40年が限度なのに100才近く生きるなんて、人間は生物としてタガが外れている。それに野生動物は足を骨折しただけで捕食されてあっという間に命を落とす。ぼくは2回足を折ったことがあるから、とっくに死んでいておかしくない」

◆野生の生き物から学んだ肩肘張らない生き方

 池田さんが野生の生き物から学んだのは、いかに肩肘張らずに生きるかということ。

「生物は本来、頑張らずに生きてきた。狩猟採集民だった頃の人間は、その日食べるものさえ手に入れば、あとはゴロゴロしたり遊んだりして過ごしていたはず(笑い)。冷蔵庫なんてないから、たくさん食糧が獲れたとしても保存ができない。同じく狩りで糧を得ているライオンだって、実はその成功率は2割。もし狩りを頑張りすぎて8割以上うまくいけば、捕食する動物がいなくなってしまうから理にかなっている。

 つまり、生物学の世界においては、“頑張れば頑張るほど、絶滅に近くなる”ともいえる。だからぼくも予定を立てるのは、“今晩は何を飲もう”ということくらい」

◆自分のルールに従って好きに生きればいい

 現在、75才の壁のど真ん中にいる池田さんだが、「体の具合は悪くて当然」と笑う。

「本来はいつ死んでもおかしくない年齢を生きているのだから、しょうがない。ぼくは年に何度も病気やけがをしているけれど、自分で大丈夫と判断する限りは通院せず、健康診断も20年近く受けていません。医療を否定するのではないけど、健康を気にしすぎるとストレスになる。自分のルールに従って好きに生きればいいんです」

 人間も動物。野生に倣って、肩の力を抜いてみよう。

◆プロフィール

生物学者・池田清彦さん(75)/東京都出身。理学博士。山梨大学教育人間科学部教授、早稲田大学国際教養学部教授を経て、現在、早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。専門の生物学分野のみならず、科学哲学、環境問題、生き方論など、幅広い分野に関する著書多数。『ホンマでっか!? TV』(フジテレビ系)をはじめとしてテレビにも多数出演。

文/池田道大 撮影/浅野剛

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