日本では「生活保護を利用できるのに、利用しない人」が、ほかの国に比べて圧倒的に多い…残念な事実

新型コロナウイルスの感染が爆発的に拡大した直後、政府の支援金を不正受給する事例がメディアを大きく騒がせました。

不正受給はもちろん問題ですが、一方で日本には、生活保護を受給できる条件で生活をしているにもかかわらず、あえて受給しないという人がきわめて多くいるのです。

その実情や背景について、オランダのフローニンゲン大学の助教授・田中世紀さんが解説します。

(この記事は、『やさしくない国ニッポンの政治経済学 日本人は困っている人を助けないのか』を抜粋・編集したものです)

「生活保護」と「スティグマ」

「恥」という概念はアメリカの文化人類学者ルース・ベネディクト(1887〜1948年)の『菊と刀』(1946年)でも触れられている。

この「恥」の文化に関連して、日本では生活保護の不正受給が問題になることがある。新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急経済対策としての持続化給付金でも、不正受給の問題がメディアで散見された。

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警察庁によると、2020年12月の時点で279人が詐欺容疑などで摘発され、立件総額は約2億1200万円にものぼるという(『日本経済新聞』2020年12月24日)。

しかし、そのような不正や不正への批判の陰で、逆の現象、つまり生活保護の対象であるにもかかわらず受給しようとしない人が日本では異常に多いという事実は、メディアでほとんど報じられない。

少しデータが古いが、尾藤廣喜らが2011年に公表したデータによると、日本で人口に占める生活保護の受給者の割合は1.57%であり、これはドイツ(9.7%)、フランス(5.7%)、イギリス(9.27%)、スウェーデン(4.5%)より低かった。

日本人は他の先進国と比べて貧しい人が少ないということだろうか。

「迷惑」と「恥」を恐れる

残念ながらそうではなく、本来生活保護を受けられるにもかかわらず受けていない人の割合を比較してみると、日本は生活保護を受けられる人全体の80%以上(最低生活費未満世帯のうち)のぼり、これはドイツ(35%)、フランス(8%:OECD基準)、スウェーデン(18%)と比べて圧倒的に多かった。

2012年に日本弁護士連合会が公表したパンフレット「今、ニッポンの生活保護制度はどうなっているの?」では、尾藤らのデータを紹介した上で、豊かであるはずの日本で「餓死」「孤立死」が見られるのは、こうした生活保護の利用率の低さが背景にあるのではないか、と指摘している。

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なぜ日本人の貧しい人の多くは生活保護を受けないのだろうか。私は海外に住んでいて、外国の行動様式にだいぶ慣れてきた部分が多々あるが、一つだけどうしても変えられず、やはり自分は日本人だなと思うところがある—どうしても「他人に迷惑をかけたくない」のである。

どんなに困っていても他人様(ひとさま)に迷惑をかけてはいけないと刷り込まれてきた教育が潜在意識として働き、助けを求めるのが億劫になってしまう。

こうした考えが、日本が自己責任の国になっていることの根底にあって、多くの貧しい人が生活保護を受けない理由の一つになっているのかもしれない。

ただし、もう一つの有力な仮説として、先ほどの「恥」に関連して、政治経済学で生活保護の受給にともなう社会的スティグマ(汚名)が生活保護などのセーフティーネットにはともなってくる、と言われることがある。

つまり、生活保護を受けるということは、人生に失敗したという烙印を捺されるということであり、恥ずべきことだと考えてしまうのである。

「スティグマ」で貧しさを認識できない日本人

日本は、とりわけ自助努力の国、自己責任の国であるがために、社会の目を気にして、生活保護を受けるのは「恥ずかしいこと」「隠さなければいけないこと」だという認識が強いのかもしれない。

また、不正受給の割合は、先述の日本弁護士連合会のパンフレットによれば、件数ベースで2%程度、金額ベースで0.4%程度であるにもかかわらず、メディアで問題にされることが多いせいで、生活保護を受けると不正受給を疑われてしまう、と嫌悪することもあるだろう。

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ここに興味深いデータがある。内閣府による2019年の「国民生活に関する世論調査」で、自分の生活の程度は世間一般から見てどうか、という質問に対して、自分は「上」と答えた人の割合は1.3%、「中の上」と答えた人は12.8%、「中の中」と答えた人は57.7%、「中の下」と答えた人は22.3%で、「一億総中流」のイメージのとおり、日本人の実に92.8%もの人が自分の暮らしぶりは「中」程度だと考えている。

それに対して「下」と答えた人はわずかに4.2%であり、これはデータから見える日本の貧困の実像を反映していない。

何らかの理由で、日本人の多くが自分は貧しくないと認識しているか、あるいは自分は貧しいと他人に見られたくないと考えているのかもしれない。ここでも、社会的スティグマという社会の目が影響している可能性がある。

さらに【つづき】「「自助努力」を人々に強要する社会には、じつは「意外とコストがかかる」ことをご存知ですか?」では、ここまで見てきたような、自助努力を求めがちな社会の落とし穴について解説する。

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