定年退職の平均年齢は60歳から一気に70歳になる?

◆「60歳で定年退職」は1998年から。意外と最近のこと

30年ほど前の定年年齢は55歳だったような記憶があります。いつ60歳定年になったのでしょうか。

1986年「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(=以後「高年齢者雇用安定法」とする)の改正で60歳定年が努力義務に、1994年の改正で60歳未満定年制が禁止(1998年施行)されました。これが60歳定年の始まりです。

2012年の改正「原則希望者全員の65歳までの雇用を義務化」により、働きたい人は65歳まで働くことができるようになり、さらに2020年3月の改正で、70歳まで働き続けることができる環境が整いました。これは定年年齢の引き上げではありませんが、この改正を受けて定年年齢を65歳、70歳に引き上げる、さらには定年制廃止に踏み切る企業が増えつつあります。

一方、国家公務員の定年年齢は、2023年度から2年刻みで段階的に65歳に引き上げられます。もちろん地方公務員もこれに準じます。65歳定年年齢引き上げは、公務員が牽引していくようです。

▼「高年齢者雇用安定法」の改正の推移

1986年:「高年齢者雇用安定法」で60歳定年を努力義務化
1990年:定年後再雇用を努力義務化
1994年:60歳未満定年制を禁止(1998年施行)
2000年:65歳までの雇用確保措置を努力義務化
2004年:65歳までの雇用確保措置の段階的義務化(2006年施行)
2012年:希望者全員の65歳までの雇用を義務化(2013年施行)
2020年:70歳まで働く機会の確保を努力義務(2021年施行)

◆70歳以上定年と定年制廃止を導入する企業が増えている

ここからは、令和4年6月24日に公表された厚生労働省の令和3年「高年齢者雇用状況等報告」(6月1日現在)をもとに、現在の定年制と定年年齢を見ていきましょう。

65歳を定年とする会社は4万8958社、全企業の21%です。定年制の廃止を含め66歳以上を定年年齢と定める企業は1万6029社で、66~69歳定年が2533社(1%)、70歳以上を定年とする会社が4306社(2%)、定年制を廃止している会社が9190社(4%)です。

*従業員21人以上の企業23万2059社の集計結果(内訳21~30人規模:5万7802社、31~300人規模:15万7290社、301人以上規模:1万6967社)
*「令和3年「高年齢者雇用状況等報告」(6月1日現在)」から調査対象となる中小企業の規模を、従業員数31人以上から21人以上に拡大・区分変更した

▼65歳を定年とする企業数

全企業の21.1%、4万8958社
21~30人:1万3922社
31~300人:3万2711社
301人以上:2325社

▼66~69歳を定年とする企業数

全企業の1.1%、2533社
21~30人:789社
31~300人:1711社
301人以上:33社

▼70歳以上を定年とする企業数

全企業の1.9%、4306社
21~30人:1390社
31~300人:2832社
301人以上:84社

▼定年制を廃止している企業数

全企業の4.0%、9190社
21~30人:3838社
31~300人:5242社
301人以上:110社

◆大企業の平均退職年齢は60~65歳未満

定年年齢を65歳以上とする企業や定年制廃止の企業が増加しているといっても、全企業の28%に過ぎません。301人以上の企業の85%は、60~65歳未満で定年退職を迎えた人の希望に応じて65歳まで雇用する継続雇用制度を導入しています。しかし、意外な変化が起きています。

301人以上の企業では、65歳定年の企業は2325社(前年より300社増)、70歳以上定年の企業は84社(同9社増)、定年制廃止の企業は110社(同23社増)です。中小企業だけでなく大手企業でも、定年制廃止に踏み切る企業が増えています。

◆定年制という概念そのものがなくなるかも

産業構造の変化や、新型コロナウイルス感染症の影響によるリモートワーク化などを経て、副業や兼業の解禁、リスキリングの強力な推進、役職定年の廃止、給与体系で年功序列型の廃止、早期希望退職募集対象年齢の低下など、企業も雇用の形を模索しています。

日本の雇用は、終身雇用・年功序列型から、ジョブ型雇用へと移行しつつあります。リスキリングや働き方改革により、人材の流動化が加速するにしたがって定年制という概念そのものがなくなっていくのかもしれません。

文:大沼 恵美子(ファイナンシャルプランナー、年金アドバイザー)

大沼FP・LP設計室代表。FPとして2002年に独立開業。「健康は食のバランスから、貯蓄は生活のバランスから」という考えを提唱する。企業や地方自治体等の各種セミナーやFP資格取得講座、福祉住環境コーディネーター資格取得講座の講師も務める。

あるじゃん(All About マネー)

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