ユヴァル・ノア・ハラリ「世界を動かしている人は、世界を理解していない」

Photo by CBS via Getty Images

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ガーディアン(英国)

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Text by Rosanna Greenstreet

 

「自分の嫌いなところは?」「読んでいなくて恥ずかしい思いをした本は?」「最後に泣いたのはいつ?」──「知の巨人」ユヴァル・ノア・ハラリに対し、恐れ多くも英紙「ガーディアン」の記者が、歴史とはまったく関係のないプライベートな質問を矢継ぎ早に浴びせかける。そこから、普段はなかなかお目にかかれない生身の“人間らしい”ハラリの姿が見えてきた。

ユヴァル・ノア・ハラリ(45):歴史学者。著書に『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』『21 Lessons:21世紀の人類のための21の思考』『漫画 サピエンス全史 人類の誕生編』など、いずれもベストセラーとなった。オックスフォード大学卒(PhD)。

『漫画 サピエンス全史』の続編となる最新作『漫画 サピエンス全史 文明の柱』(未邦訳)がこのたび刊行された。現在は、ヘブライ大学で歴史学部教授を務めている。テルアビブ近郊で夫と暮らす。

──今までで一番ハッピーだったのは何歳のときですか? 

それは「今」ですね。20歳、あるいは10歳のときと比べて、自分自身の期待の程度を現実とうまく合わせられるようになったからです。

──最も恐れていることは?

気づいたときには、すでに私たちから人間性が破壊されていることです。

──あなたの一番古い記憶は何でしょう?

歴史上の出来事で一番古い記憶は、第一次レバノン戦争とフォークランド紛争で、6歳のときです。ミサイル攻撃を受けた英海軍駆逐艦「シェフィールド」が沈没するのをテレビで見たのを覚えています。非常に強烈でした。

──現在、生きている人のなかで最も尊敬しているのは誰ですか? その理由は? 

個人レベルでは、新型コロナの時代に2人の子供を育てているシングルマザーの友人です。彼女は真の英雄です。歴史的な人物なら、ミハイル・ゴルバチョフを選びます。第三次世界大戦から世界を救ったのは、彼だと思っているからです。

──自分の一番嫌いなところは?

どんな人にも、ポジティブな面とネガティブな面はあります。大切なのは、それをどう活かすかです。たとえば怒りと正義。両者は共に同じ側面の裏と表です。怒るか、それとも正義の裁きを求めるのか。

──一番大切なものは何ですか?

この肉体です。

──自身を3語で表現してみてください。

3語で言い表せる人なんて、誰もいないと思います。

──あなたにしかない超能力があるとしたら、それは何でしょう?

物事をあるがままに観察できる能力でしょうか。

──自分の外見で一番嫌いなところは?

笑顔を作るのが苦手なんです。とくに「笑って」と要求されるようなときとか。ほとんどの写真に写っている私の顔は、ちょっと仏頂面です。

──絶滅種を生き返らせることができるとしたら、何を生き返らせたいですか?

珊瑚礁です。まだ絶滅していませんが、その途上にあります。

──これはどう考えてもよくないだろうという、自分の癖はありますか?

私は、周りにいる人たちに感謝を伝えるのが本当に下手なんです。「私が感謝していることは、みんなもわかっているはず」と決めてかかっているところがあります。

──年齢を重ねていくなかで一番恐れていることは?

知的能力が衰えていくことです。

──読んでいなくて恥ずかしい思いをした本を教えてください。

ありません。世の中にあるすべての本を読む必要はないと思っているので。

──大きくなったら、どんな人になりたかったですか?

愛される人になろうと思ってました。

──他人から言われた最悪の言葉は? 

長年、瞑想を日課としていて、その手のことは忘れるようにしています。今のところ、それはうまくいっていると思います。

──あなたが一番、罪悪感を覚える喜びは?

喜びに罪は感じません。

──両親に対して恩義に感じていることは?

感謝しかありません。両親はいつも私の味方でした。私にどう手を差し伸べたらよいかわからないときもあったと思いますが、とにかく最善を尽くしてくれました。私がまだ若く、何かと面倒をかけていたときでさえもね。

──生涯最愛の人は誰でしょう? 

夫のイツィク・ヤハフです。実は夫も私もイスラエルの同じ小さな町の生まれなんですが、デートアプリというものが出はじめたばかりの20年前にアプリ経由で知り合ったんです。結婚したのはトロントで、2010年でした。

──これまでに経験した最悪の仕事は?

16歳の夏休みが始まる頃、工業用バルブを作る工場で働いたことがあります。私は工業用バルブの作り手として、歴史家として以上に使いものになりませんでした。

──今までで最も落胆したことは何ですか?

「生きる」ということがいまだにわからないことです。若い頃は、そのうちそれがわかっている人に出会うだろうと考えてました。私は45歳になりましたが、この先もそんな人にお目にかかれることはなさそうです。

──もし過去を書き換えられるとしたら、どうしますか?

カミングアウトしたのが21歳ではなく、16、7歳だったらよかったのにと思っています。

──最後に泣いたのはいつですか? その理由は?

数年前に愛犬が死んだときです。休暇でギリシャに滞在していて、友人が留守中の飼い犬を見守っていました。その友人から、飼い犬がヘビに噛まれたと連絡が入ったんです。急いで帰宅したものの、愛犬は数時間前に亡くなっていました。

──最近、考えを改めた重要な事柄はありますか?

今年、それがありました。新型コロナウイルス感染症です。大きな問題に対処するにはグローバルな協調体制が不可欠であると、信じて疑いません。けれど、この1年あまりの世界を見ているとそれは考えていた以上にはるかに困難で、不可能かもしれないと思ってしまいます。

──九死に一生を得たことはありますか?

13歳のとき、バスにあやうく轢かれそうになったことがあります。1991年の湾岸戦争のときは、自宅のすぐ近くにイラクのミサイルが着弾したことがあります。

──最も大切な人生の教えは何ですか? 

万物は流転すること。人は決して満足しないということ。すべてのアイデンティティは虚構だということです。

──人は、死ぬときどうなるのでしょう?

これに関して、かなり多くのことを書いてきました。意識は永続的なものではないのに、そういうものだとみなす感覚が人間にはあると考えています。今、このときの意識は1分前、1日前、1年前と同じだ、というふうに結びつけているわけです。

しかし実のところ、ある瞬間の意識と次の瞬間の意識とを結びつけるものが何なのかは、まったくわかっていません。それが解明されれば、死ぬときにどうなるのかもわかるようになるのではないでしょうか。

私にはさっぱりです。だから、わかりません。

──秘密をこっそり教えてください。

世界を動かしている人は、世界を理解していない。

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