ホメオスタシス(homeostasis)

ホメオスタシス(homeostasis)

 

生物体または生物システムが間断なく外的および内的環境変化を受けながらも、個体またはシステムとしての秩序を安定した状態に保つ働きをいう。恒常性ともよぶ。フランスのC・ベルナールが、体液の状態は環境が変化しても一定に保たれるような調節作用があるという考えを発表したが、アメリカのキャノンWalter B. Cannon(1871―1945)はこの考えを発展させ、恒温動物における体温の恒常性、生物の防衛手段にも当てはめた。キャノンはホメオスタシスの用語を提唱したとき、固定して動かない状態を意味するのではなく、「変化しつつも安定した定常的状態」を意味すると述べた。ホメオスタシスの維持に有効に働くのは、神経系、内分泌系、免疫系であるが、キャノンはとくに自律神経系の働きに注目した。自律神経の働きにより、たとえば体温は無意識のうちに自動的に調節される。自動制御の能力が増すことによって生物はそれだけ外部環境から独立して自由度を増すことができる。腎臓(じんぞう)による体液の浸透圧調節能力はすべての脊椎(せきつい)動物に備わっているが、体温調節能力は鳥類と哺乳(ほにゅう)類に備わっている。これらを生理的ホメオスタシスとよぶが、この概念を拡大して定義される異なるレベルでのホメオスタシスがある。生態学的ホメオスタシスは生物群の社会的・生態的関係が安定していることをさし、動物の行動様式が一定であるのは行動学的あるいは心理学的ホメオスタシスという。発生学的ホメオスタシスとは、生物の一生は動的な変化の過程であるが、質的変化を伴いながら、それぞれの発生段階でホメオスタシスを維持していることをさす。

[川島誠一郎]

ホメオスタシス
homeostasis

生体恒常性と訳される。アメリカの生理学者 W.キャノンが,主著人体知恵』 (1932) のなかで提唱した生物学上の重要概念。生体内の諸器官は,気温湿度など外部環境の変化や,体位,運動などの身体的変化に応じて統一的かつ合目的性をもって働き,体温,血液量や血液成分などの内部環境を,生存に適した一定範囲内に保持しようとする性質があり,内分泌系と神経系による調節がそれを可能にしている。この性質をホメオスタシスと名づけた。体温や血糖値の正常範囲外への逸脱は,生体恒常性の異常すなわち病気を意味する。また自然治癒力は生体恒常性の表われと解される。
生体恒常性とも。生体が外的・内的環境の絶えざる変化の中におかれながら,形態的・生理的状態を一定に保とうとする性質。浸透圧調節,体温調節など。米国の生理学者キャノンによる造語。主として自律神経系による神経性の調節と,ホルモンによる体液性の調節とがある。ホメオスタシスの高度化に伴って生物はより大きな環境からの自由性,独立性を獲得する。もとは高等動物の生理学的研究から生まれた概念だが,現在では生物群集や個体群の動的平衡状態についても,広くホメオスタシスの語が適用される。

ホメオスタシス

生物体が外部環境の変化や食物影響にもかかわらず、体温 ・ 血糖値 ・ 血液酸性度などの生理的状態を一定に保つこと、およびその仕組み。主として自律神経系と内分泌系の働きによって維持されるが、血液の緩衝作用や、腎臓の浸透圧調整作用も重要である。

(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2007年)

生体の恒常性維持機構.生体内で維持されているイオン組成などの動的平衡状態そのものをさす場合もある.

生体が外部の環境の変化に対して内部環境を一定の状態に保とうとする性質.

生物の生理系(たとえば血液)が正常な状態を維持する現象を意味する言葉で,〈等しい〉とか〈同一〉という意味のhomeoと,〈平衡状態〉〈定常状態〉の意味のstasisを結びつけて,アメリカの生理学者キャノンW.B.Cannonが1932年に提唱したもの。恒常性とも訳される。 直接外環境の変動にさらされているバクテリア単細胞動植物とちがって,多細胞生物は体表に外被(皮膚樹皮など)があり,体内に体液,樹液があるので,細胞にたいする外界の影響は多少とも間接的なものになる。

世界大百科事典内のホメオスタシスの言及

【家族】より

…どの研究も家族への心理療法的ないしはケースワーク的接近に基づいている。提出された概念をいくつか列挙すると,〈家庭内における世代間境界の混乱〉(T.リッツ),〈家庭のホメオスタシス〉(D.D.ジャクソン),〈二重拘束(ダブルバインド)仮説〉(G.ベートソン,ジャクソンら),〈偽の相互性〉(L.C.ウィン),〈家庭神話〉などである。一,二について少し解説を加えると,世代間境界の混乱とは,例えば両親のどちらかが相手に対し配偶者としてより子どもの役割を演じる場合とか,息子に対し母が母としてよりも異性としてふるまう場合などをいう。…

【環境】より

…さらには,生物主体が〈適応〉過程を通じて環境の中で最適な条件を選ぶという能動性を強調する立場も登場している。 クロード・ベルナールは外界の環境が激しく変化しても生物が生きていけるのはその〈内部環境milieu interieur〉(この場合の主体は細胞や組織)を一定に保つ能力があるためであるということを指摘し,この能力をホメオスタシスと呼んだ。今日この概念は外部環境にも逆輸入され,生態系のホメオスタシスといった使い方もされるようになっている。…

【キャノン】より

…20世紀に入ってからは,それを契機として感情の消化への影響効果に興味をもったが,その研究の結果,交感神経・副腎系の重要性を認識し,それを中心課題として系統的研究を始めた。1930年代に交感神経末端の化学伝達物質の研究に大きな成果を残し,一方で生体の制御の全体,とくに血液に関するさまざまな調節機構に注目し,C.ベルナールの〈内部環境〉を〈液体マトリックス〉として具体的に定式化し,1926年には〈ホメオスタシス〉概念を提出した。すなわち交感神経・副腎系をはじめとする複合的反応過程により,いかに生体の定常状態が保たれるのかを示したのであり,これは《からだの知恵》(1932)の中で十分に論じている。…

【自律機能】より

…また,神経とホルモンの調節以外にも,たとえば心臓に血液が増えると心臓の働きが亢進するように,自律機能に関与する諸器官そのものの状態によっても自動的に調節される場合もある。このような生体の調節機能の全体をホメオスタシスと呼ぶ。自律機能との対比で運動機能がある。…

【ストレス】より

…セリエは,高血圧症,胃・十二指腸潰瘍,糖尿病,リウマチ性疾患などの一部はこのようなストレスの過程に起因すると考えた。このセリエの汎適応症候群の概念は,基本的にはW.B.キャノンのホメオスタシスのそれと一脈通じるものがある。
[ストレスと病気]
ストレスの原因となるストレッサーとしてはさまざまな要因がある。…

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