コロナワクチン接種後死亡、遺族が集団提訴も 国は因果関係認めず ワクチン接種の影(上)

新型コロナウイルスのワクチン接種後に亡くなった人の遺族12人が、遺族会を結成した。遺族会にはさらに118人が加わる予定で、ワクチンと死亡との因果関係を認めるよう厚生労働省に訴えている。病理学的なデータが集まれば、国を相手取り集団訴訟を起こす考えも示した。今のところ厚労省は因果関係を認めていない。医学界からも解剖によって死因を調査すべきだとの声が上がる。ワクチン接種の「影」に光は当たるのか。

「子どもたちの成長を夫に見せられないと思うと悲しくて悔しい。国はワクチンが原因だったと認めてほしい」。20日、宮城県在住の須田睦子さん(34)は東京都内で開かれた遺族会の結成会見に出席し、すすり泣きながらこう訴えた。

新型コロナワクチン接種後に亡くなった人々の遺族らは涙ながらに悲痛な思いを語った(10月20日、東京都内)
新型コロナワクチン接種後に亡くなった人々の遺族らは涙ながらに悲痛な思いを語った(10月20日、東京都内)

「なぜ、死ななければならなかったのか」

2021年10月、夫が米ファイザー製の新型コロナウイルスワクチンを2回目接種した3日後に亡くなった。死因は血流が急激に低下する「急性循環不全」。基礎疾患はなく、健康診断でも異常はなかった。医療機関からは「ワクチンの副反応の可能性を否定できない」と診断された。須田さんの夫の死亡例は厚生労働省にも報告されているが、因果関係は認められていない。

夫は3人の子どもと、おなかの赤ちゃんを残して帰らぬ人となった。「コロナから子どもを守ると言ってワクチンを打ったのに、なぜ、死ななければならなかったのか」。1年たった今も悲しみが止まらない。国の予防接種健康被害救済制度に基づき被害の認定申請を出したが、現段階では「評価不能」とされている。

須田さんは「夫は健康そのものだった」と話す
須田さんは「夫は健康そのものだった」と話す

遺族会の立ち上げで中心的な役割を担った任意団体、コロナワクチン被害者駆け込み寺の鵜川和久代表は「今も問い合わせが相次いでいる。『打ったのは自己責任』などと心ない罵詈(ばり)雑言をSNS(交流サイト)で投稿する人もいて、ケアが欠かせない」と話す。

須田さんのケースは氷山の一角だ。ワクチンについては感染者の重症化予防などで効果を発揮したと評価されている一方で、接種後に亡くなる人が後を絶たない。

副反応疑い1900件近い死亡報告

首相官邸のホームページによると、10月24日までのコロナワクチンの総接種回数は約3億3000万回。国民の約80%がコロナワクチンの2回目接種を終えており、約66%が3回目接種も完了している。

厚生科学審議会の予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会の10月7日の資料によると、各社ワクチンの接種開始日から今年9月23日までに、医療機関や製薬会社から寄せられた接種後の副反応疑い報告には1900件近い死亡例が含まれていた。

副反応検討部会はそのほぼすべてを「情報不足などによりワクチンと死亡との因果関係が評価できない」と判断。わずかな例外については「ワクチンと死亡との因果関係が認められない」と結論づけた。因果関係を認めた事例は1つもない。


京都大学の福島雅典名誉教授は、兵庫県内の開業医らでつくる兵庫県保険医協会が発行する兵庫保険医新聞に掲載された対談で、こうした対応を「不誠実」「科学的怠慢」と批判。その上で「ワクチン接種者の中長期的な副反応を厳重に観測し、被害者調査、死亡者調査を、国が責任を持ってやるべきだ」と述べている。

一方、遺族らからの被害認定申請については、副反応検討部会とは別の、疾病・障害認定審査会の感染症・予防接種審査分科会が対応を担っている。この分科会がこれまでにコロナワクチン接種後の死亡被害を認めたのは4件にとどまる。

被害者支援を続ける青山雅幸弁護士は「ワクチンという医薬品・医療行為には光と影がある。今回、国は国民に努力義務まで課して接種を求めたが、影について積極的に調査をすべきだ」と訴える。

遺族や遺族を支援する弁護士らが死亡原因を新型コロナワクチンと主張する背景の1つには、既存のインフルエンザワクチンと比較したとき、副反応の疑いが報告されている接種後の死亡例の数に大きな開きがあることがある。

厚労省によると、21年までの10年間のインフルエンザワクチンの推定接種回数は、約2億6800万回。同省ホームページにある「令和4年度インフルエンザQ&A」によると、インフルエンザワクチン接種後の死亡例は09年10月~22年3月の累計で、新型インフルエンザと季節性インフルエンザを合わせても20件しかない。

他方、コロナワクチンの場合、日本で最も使われているファイザー製は今年9月4日までの約1年半で2億3800万回接種され、約1670件の死亡例が副反応の疑いで報告されている(5〜11歳用ワクチンは除く)。死亡例の多さはインフルエンザワクチンの比ではない。

スパイクたんぱくが悪者か

新型コロナワクチンと死亡との因果関係は医学的に証明されていないが、可能性を示唆する研究や論文は報告されている。

ファイザーや米モデルナが開発した新型コロナワクチンは、「mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン」と呼ばれる医薬品で、ウイルスのたんぱく質「スパイクたんぱく」のもとになる遺伝情報の一部を注射する。体内でスパイクたんぱくが作られると、それに対する抗体が作られる。この抗体によって新型コロナウイルスに対する免疫を引き出すのが特徴だ。

厚労省はこのスパイクたんぱくは、接種後短時間で消滅するとホームページなどで説明している。

しかし、免疫学の医学雑誌の1つ、Journal of Immunologyに昨年10月掲載された研究論文では、健康な人の体で少なくとも4カ月間、スパイクたんぱくが血液中に行き渡っていることが報告された。消えずに残ったスパイクたんぱく自体に「血管内皮細胞障害」などを引き起こす毒性があるとした論文もある。

スパイクたんぱくが消滅せず悪影響を及ぼしていることを示す論文も9月に公表された。高知大学の研究チームは、mRNAワクチン接種後に現れた帯状疱疹(ほうしん)と呼ばれる皮膚症状を調査し、スパイクたんぱくを検出した。

この症状を患ったのはファイザー製ワクチンを2回接種した人で、「今後臓器で発現するスパイクたんぱくにおいても同様に証明することができれば、mRNAワクチンによる副作用の証拠となるかもしれない」(高知大医学部)としている。


求められる積極的な病理解剖

さらに、血液を介して様々な細胞に入り込んだスパイクたんぱくが、人の免疫機能に影響を及ぼすことも分かってきた。東京理科大学の村上康文名誉教授(分子生物学・免疫医学)は、「消えずに残ったスパイクたんぱくが細胞に取り込まれ、その細胞がスパイクたんぱくを生み出すと、免疫系が細胞を異物とみなし攻撃するようになる。その結果、肝臓や副腎、血管などに様々な障害が起きる可能性が出てくる」と解説する。

東京理科大の村上名誉教授はスパイクたんぱくによる免疫系の暴走を指摘する
東京理科大の村上名誉教授はスパイクたんぱくによる免疫系の暴走を指摘する

イタリアの分子腫瘍学研究所(ミラノ)の荒川央博士は村上名誉教授の論説を支持した上で、「スパイクたんぱくは血液脳関門(血液から脳内に有害物質が入るのを防ぐバリアーの役割を果たす)を透過することが分かっており、脳への損傷も懸念される。スパイクたんぱくが脳で発現すると、炎症や脳細胞壊死(えし)の原因となる可能性がある」と警鐘を鳴らす。

スパイクたんぱくが消えずに様々な細胞に取り込まれるリスクについては、岡田正彦・新潟大名誉教授や井上正康・大阪市立大名誉教授なども唱えている。村上名誉教授は「mRNAワクチンの接種を繰り返せば、免疫の働きがスパイクたんぱくばかりに偏ってしまう結果、悪性腫瘍(がん)や他の病原体に対する免疫力が低下してしまう恐れがある」とも指摘する。

青山弁護士は「死亡者が病理解剖や司法解剖に付され、死因と関係する組織が病理標本として保管されている場合がある。これを積極的に調べ、因果関係を突き詰めることが欠かせない」と指摘。ワクチンとの関連を疑う遺族に対して「死亡確認された医療機関などで積極的に病理解剖を申し出てほしい」と呼びかけている。

日本病理学会や日本法医学会など3学会は8月、「死亡症例の病理解剖・法医解剖を推奨する」との声明を出した。見いだされた病変についての詳細な記録に努める必要があるとしている。

遺族会では病理解剖の結果などデータを蓄積しながら、国による被害救済が進まない場合、国などに対し集団訴訟に踏み切る考えだ。

「一番大事な人を失った。国は頭を下げてほしい」「接種は中止されることなく被害が今も広がっている。悲しみの連鎖を断ちたい」。会見で遺族らは時におえつし、時に号泣しながら口々に思いの丈を述べた。「なぜワクチンのことを丹念に調べ、(接種を)やめさせなかったのか」と自責の念を口にする遺族もいた。

青山弁護士の言うように医薬品行政に光と影があるなら、国は影にも目を向ける必要がある。放置したままでは遺族は救われない。

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