アホな常識と付き合っている暇はない。40歳を過ぎたら好き勝手に生きよう

アホな常識と付き合っている暇はない。40歳を過ぎたら好き勝手に生きよう

40歳以降の人生は、無駄ともいえる長い時間
mi-mollet(ミモレ)

健康な身体を維持するために、食事制限という苦行を強いられる。恋愛を推奨するドラマや小説は数多く存在するのに、結婚したとたんに配偶者以外との恋愛を禁じられる。よくよく考えると疑問符がつく「常識」も、この世には少なくありませんよね。そして、それらが知らず知らずのうちに人生を窮屈なものにしているのかもしれません。

そんな中、生物学者の池田清彦さんは、自著『40歳からは自由に生きる 生物学的に人生を考察する』において、40歳以降は窮屈な常識に捉われずに生きることを勧めています。でもなぜ40歳からなのか? その理由は人間の生物学的寿命にありました。

「最近、寿命に関係する遺伝子の発現をコントロールしている領域のDNA(デオキシリボ核酸)のメチル化の度合いを調べれば、動物の自然寿命を推定できることが分かってきた。それによると、ヒトの自然寿命は38歳とのこと。チンパンジーやゴリラとほぼ同じである。無事に大人になった飼育下のチンパンジーの平均寿命は約40歳であることから、ヒトも、本来の寿命は40歳くらいだろうと思われる」

生活環境の改善と医療の進歩によって得られた40歳以降の人生について、池田先生は「生物学的には無駄ともいえる長い時間」と考え、このような過ごしかたを提案しています。

「一般的には40歳を過ぎた頃から、社会的地位が確立することが多く、世間のしがらみに捉われて、いいたいこともいえず、したいこともできず、気が付けば老境に入っていたという人も多いと思うが、生物学的には、自然寿命を過ぎれば、残りは無駄な人生なのだから、好き勝手に生きたらいいと思う」

とはいえ、いきなり「好き勝手に生きよう」といわれてもどうすればいいかわからなくて戸惑いますよね。また、世間の常識やしがらみに正面切って「間違っている」といえるほどの具体的な根拠も持ち合わせていないでしょう。

今回は、そういった問題を解決してくれる本書の一部をご紹介したいと思います。


好き勝手に生きるために「規範」を立てる
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「好き勝手」のイメージはそれこそ人それぞれで、日がな一日遊んで暮らす意味に捉える人も多いと思いますが、池田先生の考える「好き勝手」はその手のものとは一線を画しているようです。

「好き勝手に生きるということは、ムチャクチャ生きてもいいということではない。世間の常識に捉われないで、自分自身の規範を立てて、なるべくその規範を守って生きるということだ。規範の立て方は人それぞれで、誰にも通用する正しい規範などというものはない。自分の頭で考えて、自分が最も心地よくなる規範をつくって、その規範をなるべく守ること。たとえばぼくは、午後5時になるまでは酒は飲まないと決めている。酒好きのぼくはそう自分で決めないと、きっと朝から酒浸りになるに決まっているからだ」

ここで、池田先生は自分なりの規範を「守る」ことを勧めていますが、時にはその規範を「破る」ことも推奨しています。なぜ真逆のことをいうのでしょう?

「規範をほぼ守っているからこそ、たまに規範を破った時のエクスタシーは大きいのだ。毎日昼間から酒を飲んでいたら、昼間飲む酒はこんなに旨くない。規範を守るのは、それを破った時のエクスタシーを感じるためでもある」

アホな常識と付き合っている暇はない
確かに、何でもやっていい環境だと、自由のありがたみが薄れて刺激を感じなくなってしまうでしょうね。そう考えると、池田先生は本腰を入れて人生を楽しもうとしていることが分かります。

「いずれにせよ。40歳を過ぎたなら、生物学的にはおまけの人生なのだから、世間の常識は無視して、あるいは、なかなかそうもいかないという人も、無視していないふりだけして、自由に生きたほうがいいよ」

40歳を過ぎた大人は、常識に従順なふりをして周囲を欺くくらいの狡猾さがあったほうがよさそうですね。70代半ばに差し掛かった池田先生は、「好き勝手に生きる」ことを他人にも勧める理由を、非常に分かりやすく伝えています。

「人生は短い、アホな常識と付き合っている暇はない」


健康に気を使いすぎると、早死にする!?
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食事は人生に大きな楽しみをもたらしてくれますが、40代以降になると生活習慣病予防やダイエットという観点から制限する傾向が強くなりますよね。しかし、池田先生は健康に気を使って食事を制限することに警鐘を鳴らしています。それは、人生を楽しめないからという理由だけではないようです。

「『フィンランド症候群』という現象があります。フィンランド保険局が1974~1989年の15年間にわたり、40~45歳の1222人の男性管理職を対象にアトランダムにほぼ半数の612人を選んで、最初の5年間定期健診をおこない、医師が食事のチェックや運動、タバコ、アルコール、砂糖や塩分摂取などについて指導しました。もう一方の610人には定期健診もせず何の積極的介入もおこなわずに、健康管理を本人に任せました。その後、1989年までの15年間の追跡調査の結果、医師の介入のあったグループでは67人が死亡し、介入のなかったグループでの死亡数はそれよりも21人も少ない46人という驚くべき数字が出たのです。心臓疾患の死者は特に差が大きく、介入群の死者34名、非介入群14名だったのです」

皮肉なことに、細かく健康管理をしたほうが早死にする確率が高いという結果が出てしまいました。池田先生は、原因をこのように考察しています。

「健康的な生活を追求しすぎるあまり、それが精神的なストレスとなって肉体に影響をおよぼし、心疾患にかかりやすくなったと思われます。医師にあれこれ指導を受けたり、健康に気を使いすぎたりするよりも、おおらかな気持ちで、自由気ままに生きたほうが病気にもかかりにくいし、第一、楽しく生きられるのです」

健康にいい食品ばかりを摂るのは危険!?
さらに池田先生は、健康にいいとされる食品ばかりを摂取する危険性についても言及しています。

「むしろ危険なのは、体にいいからと、同じ食品を毎日食べ続けることでしょう。加工品にはさまざまな添加物が使われていますし、野菜にはたいてい種々の農薬が入り込み、輸入の肉や魚の多くに抗生物質やホルモン剤が含まれています。健康にいいからと、同じ食品を毎日食べ続けることは、同じ有害物質を毎日摂り続けることを意味します」

さまざまな面から健康志向の中に潜む危険性を指摘する池田先生は、健康との向き合い方についてこのように提案しています。

「健康についても自分の頭で考えて自分なりの『規範』をつくってはどうでしょう。ちなみに、ぼくは『健康に気を使わない健康法』という規範を掲げています」


「一夫一妻制」は人間には向いていない!?
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近年は多様な生き方が認められてきているとはいえ、いまだに40代に突入した未婚者は「なぜ結婚しないの?」と好奇の目で見られますし、既婚者に対しては浮気しないことや、立派な父親・母親としてふるまうことが求められます。池田先生は、40代以降の人生を窮屈にしているともいえるこの「結婚」という制度についてもメスを入れます。

「今の一夫一妻制はアメリカのピューリタンの影響が大きいのでしょう。超大国アメリカの歴史は、ヨーロッパで迫害を受けていたイギリスのピューリタンたちが移住したことに始まります。ピューリタンは性にかんしても非常に厳格で、一夫一妻制以外の関係は認めようとしませんでした。しかし、生物学的には一夫一妻制は人間にはあまり向いているとはいえず、たんに社会的な制度として決められているだけで、絶対的な『善』でもなければ、『正義』でもありません。ところが、とくに最近の日本人は一夫一妻制に拘泥するあまり、そこから少しでもはずれた行動をとると、不道徳だ、ゲスだ、人間のクズだ、と責め立てます。何とも窮屈で、生きづらい世の中になったものです」

ここだけを読むと、一夫一婦制は人間に無理を強いているだけのような印象を受けますが、池田先生は自然に一夫一婦制が成り立つパターンがあることも指摘しています。

「夫以外、妻以外の異性(あるいは同性)とは気持ち悪くてセックスなどできないという人たちもいます。それは生物学的にも大いにありえる反応です。夫婦は同じ家で長い時間をすごし、ベッドもたいてい一緒です。そうなると、皮膚などに棲みついている常在菌がたがいに似通ってきますので、たとえば、夫が手づかみで食べたパンの残りを、妻は平気で食べられたりするのです。ところが、婚外の相手では、常在菌も自分のものとはまったく違います。どんな常在菌をもっているかわかったものではなく、婚外のセックスとはそのような得体の知れない未知の常在菌にさらされることでもあります。潔癖な人だと『気持ちが悪い』と感じるのは当然かもしれません」

自分を縛っているものからの解放
つまり、池田先生は一夫一婦制を否定したかったわけではなく、それが絶対的なものではないということを伝えたかったのでしょう。本書では、一夫一婦制を絶対視してしまうことの弊害についても述べています。

「頭から『一夫一妻制=正しい』『一夫一妻制=間違い』と決めつけていては、人間というものを深く理解することはできないし、他人の行動に対してもひどく不寛容になってしまうと思います。不倫を糾弾する人を見ていると、本人は気づいていなくても、不倫をしている人間に対する嫉妬やねたみといったものを感じます。自分にも夫以外の男性と、妻以外の女性と寝てみたいという隠れた欲望が潜んでいて、その欲望を抑圧して生きている反動なのかもしれません」

池田先生は、一夫一婦制に限らず、自分の中の「当たり前」を疑うことで新たな道が開けることを示唆しています。

「40歳をすぎたら、自分が当たり前だと思ってきた画一的な『正義』や『正論』を一度、心の中から引っぱりだしてきて、疑いの目で見直すのもいいでしょう。自分を縛っているものの正体に気づいて、そこからの解放につながるかもしれません」

著者プロフィール
池田清彦(いけだ きよひこ)さん
1947年、東京都に生まれる。生物学者。東京教育大学理学部生物学科卒業。東京都立大学大学院理学研究科博士課程生物学専攻単位取得満期退学、早稲田大学国際教養学部教授を経て、山梨大学名誉教授、早稲田大学名誉教授、高尾599ミュージアム名誉館長。著書に『構造主義生物学とは何か』(海鳴社)、『やがて消えゆく我が身なら』『生物学ものしり帖』(以上KADAKAWA)、『「進化論」を書き換える』『新しい環境問題の教科書』『この世はウソでできている』(以上新潮社)、『病院に行かない生き方』(PHP研究所)、『SDGsの大嘘』(宝島社)、『構造主義科学論の冒険』(講談社)などがある。

構成/さくま健太
 

 

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