なぜ日本人は給与がこれほど少なく、ジリ貧になってしまったのか──米メディアが分析

コスト削減だけでなく、国民が労働改革の変革を阻む?
なぜ日本人は給与がこれほど少なく、ジリ貧になってしまったのか──米メディアが分析

 

Photo: d3sign / Getty Images

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国税庁の『民間給与実態統計調査』によると、日本において民間企業で働く人の2021年の平均給与は443万3000円となった。これはOECDの平均給与5万1607ドル(約722万円)と比べてかなり低い。なぜ日本人の給与は世界とこれほど差がついたのか、米メディアが解説する。

カリフォルニアのマックで働く魅力

1840年代から始まったゴールドラッシュでは、財を成そうと金を求めて何十万人もの移民がカリフォルニアに渡った。次は、ハンバーガーを作って稼ごうとする日本の若者たちが同地に向かうのだろうか。

というのは冗談だが、カリフォルニアで新法が導入されれば、同地のファーストフード店従業員の時給が最大で22ドルになるかもしれないと、日本のメディアでは大きく騒がれている。それは現在の日本円に換算すると約3000円で、日本の平均的な最低賃金の3倍以上にもなるのだ。

カリフォルニアのファーストフード店で週40時間勤務した場合の月収は、日本の有名大学の新卒者が一流のメガバンクから受け取る給与の1.7倍にも相当する。あるコメンテーターは「日本で働くのはバカらしい」と述べた。

給与の安さは円安が原因ではない

歴史的な円安が起きている。しかし、円の弱さが日本の低賃金の問題を引き起こしたのではなく、格差を誇張したに過ぎない。インフレと相まって、円安は醜い現実に残酷な光を当てているだけだ。それは、国際的な基準からすると、勤勉で有名な日本の労働者の受け取る賃金はひどく少ないということだ。

これは数十年にわたる日本経済の停滞と、経営者と労働者双方による保守的な選択の結果だ。日本の平均賃金は30年間横ばいで、OECD諸国の平均を大きく下回っていることで知られている。企業はコスト削減に固執し、手元資金と利益率を増やしてきた。

しかし、円安の影響が物価に波及し、労働者の実質所得はかつてないほど圧迫されている。アップル社は今年のiPhoneの米国での価格を据え置くと述べたが、日本の消費者はiPhone 14を昨年のモデルより20%以上高い価格で買っている。予想通り、アップルの重要な市場である日本での売り上げはここ数年で最悪だ。

このような状況では日本の若者は海外に活躍の場を求めるのではないかと、頭脳流出を懸念する声もある。逆に、日本が海外から呼び寄せたがっている医療従事者や建設労働者には日本は魅力的でなくなるかもしれない。

インフレでも給与を上げない企業

現在のインフレに関しても、企業は主に輸入品価格の上昇によるコスト上昇を消費者には充分転嫁していない。帝国データバンクが1400社以上の企業を対象に行った調査によると、100円のコスト上昇分のうち、企業は平均36.6円しか値上げしていないのだ。

価格上昇によって消費者がライバル企業に流れることを恐れるあまり、多くの企業がコスト増のほとんどを吸収している。日本では馴れ合いというカルテルがあるという先入観とは裏腹に、実際は多くの分野において競争が激しい。経済もパンデミックからまだ回復途上にある。

もちろん、消費者、特に年金生活者にとっては、日本のインフレ率が比較的低いのは朗報だ。インフレが起きているといっても、東京の生鮮食品以外の消費者物価指数の上昇は2022年10月で3.4%で、1989年以来の伸び率となった。株主は、日本企業の利益率上昇を歓迎している。特にドル建てで投資した場合はなおさらだ。

しかし、100円のコスト上昇分のうち、残りの63.4円はどこかから捻出しなければならない。実際には、コスト削減と利益率の低下を意味し、その結果、労働者の収入も減少する。また、日本には下請け企業に値下げを要求するという陰湿な慣行があり、バリューチェーンの下にいる企業にはさらに厳しい圧力がかかる。

日本銀行は2022年10月末、インフレ環境下の企業による賃金設定について「高い不確実性」を理由に、困惑した様子を示した。このような状況は長く日本には存在しなかったので無理もないことだ。

日本に必要なのは「労働市場改革」

日本最大の労働組合の中央組織である連合は、2023年の春季労使交渉で5%程度の賃上げを要求する予定だという。しかしこのニュースにはあまり喜べない。経営陣がこの要求を受け入れたとしても、連合の組合員数は約700万人と、日本の労働人口の1割に過ぎないのだ。賃金交渉は30年間、ほとんど方向性を変えなかった。しかし、取り組むべきは、より根本的で構造的な問題だろう。

その有用性が失われたにもかかわらず、日本にはかつての雇用システムが多く残っている。たとえば、労働者が転職しやすい環境がいまだに整っていないこと、正社員と非正規社員との格差が大きいこと、高度なスキルを持つ人材でも初任給が低いことなどだ。

問題は、これらの課題の解決が支持されていないことだ。賃金が低い主な理由は、解雇が非常に難しいことにある。労働改革によって「雇用の流動性」を高めれば、必然的に「雇用の安定」は失われる。高いスキルのある人やリスクを取ろうとする人に報いようと大きな変革をすれば、必然的に経済的不平等は助長されてしまう。日本は低成長にもかかわらず過剰な格差拡大を回避してきたことから、犯罪率は低く、街の清潔を保てるのだ。

人口が増えなければ、1960年代から70年代にかけての高度成長期のような、国民のほぼ全員が中流階級であったような日本が復活することはない。

岸田文雄首相は構造的賃上げ実現を目指すと大口を叩いている。しかし、自分に対する評価が非常に低いときに、彼はこのような不愉快な問題に取り組めるのだろうか。インフレと円安からは危機感が生まれているため、対応のチャンスが生まれるかもしれない。企業も消費者も物価上昇に慣れれば、対処法を探り始めるだろう。

岸田は、円安を日本の利点として活用すると訴える。しかし、国内外の企業による日本への投資と雇用を奨励するための大胆なプログラムは、とっくに時機を逸した。

円が弱いからといって、日本の若者がロサンゼルスの客に「ポテトも一緒にいかがですか?」などと聞くことはないだろう。そのために、日本の多くの良さを捨てるとは思えない。しかし、さらに30年も賃金が低迷したらどうだろうか。それは誰にとってもうれしくない未来だ。

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