いま見られる「緑のZTF彗星」にまつわる不都合な真実

https://images.forbesjapan.com/media/article/60390/images/main_image_f92f9eb7e025dab1a2c8fba07f9cb65e84a7b42d.jpg 外へ出て北の空を見上げると、もしいくつかのウェブサイトで読んだことを信じるなら、明るい緑の彗星が空を駆け抜けるところが見えただろう。しかし実際には、そんなものはまったく見えない。ZTF彗星(C/2022 E3)に関する数多くの大げさな記事がネットを出ているが、太陽系の縁からやってくるこの訪問者を実際に見ることに関する少々不都合な真実がある。

あなたの庭からZTF彗星を見ることはできるのか? 確かに見える! ただしそれは、あなたに忍耐力と上等な双眼鏡か小さな望遠鏡があるならばだ。しかも、最も明るくなったところを見るまでには数週間以上待つ必要がある。

彗星のエキスパートであるアラン・ヘイル(1990年代後半の明るいヘール・ボップ彗星の共同発見者)のFacebook投稿に触発され、私はZTF彗星に関する記事を読む際に注意すべき理由を5つ紹介する。さらに、それでも興味が尽きない人たちのために、正確にいつどうすれば見ることができるかに関する私の考えも書いておく。

1. この彗星は暗い

それは肉眼で見るにはあまりにも暗い。現在、この彗星は太陽光を反射して約7等級の明るさで見えている。これは理想的に暗い宇宙の条件下で肉眼で見える明るさをわずかに下回る。つまりは双眼鏡が必要になる。2020年に多くのすばらしい長時間露光写真が撮影されたネオワイズ彗星を見るために双眼鏡が必要だったのと同じだ。天体写真の世界では、カメラはほぼ常に静止している。ZTF彗星を双眼鏡や小さな望遠鏡で覗くと、鮮明でぼんやりした斑点に見える。

2. 「空を駆け抜ける」ことはない

ZTF彗星は、誰かがいっているように「空を駆け抜ける」ことはない。彗星はそのような動き方をしない。それは「流星」、天文学者の言葉でいう隕石だ。彗星は毎夜移動するが「駆け抜ける」ように動くことはない。

3. 「一生に一度の体験」ではない

いや、厳密にいえばそうなのだが、そうでない彗星などあるだろうか? ZTF彗星の軌道周期は5万年なので、太陽系を訪れるのは石器時代以来であり、もちろん有史以来(別の人たちはそう表現する)の出現だ。短周期彗星でさえ、比較的稀にしかやってこない。ハレー彗星(最大かつ最も有名な彗星)は約75年ごとに太陽を回り(次は2061年)、比較的明るいネオワイズ彗星は4400~6700年間は戻ってこない。アマチュア天文家たちが、どの瞬間にも5つくらいの彗星を望遠鏡で見ていることを考えると、ZTF彗星は必ずしも稀ではない。そして「比較的」明るいが「肉眼で見える」明るさではない。

–{緑色には見えない}–

4. 緑色には見えない

確かに、大型望遠鏡を使った長時間露光写真には緑色のコマ(ガスや塵の雲)と2本の尾があるように写っているが、最新の光学装置を使っても、緑色に「見える」ことはなく、双眼鏡では決してない。ちなみに、コマの緑色は彗星にとってはごく普通のことだ。

いま見られる「緑のZTF彗星」にまつわる不都合な真実

いま見られる「緑のZTF彗星」にまつわる不都合な真実© Forbes JAPAN 提供

明るい星、カペラの近くにあるZTF彗星を見つける(2023年2月5日、STELLARIUMのスクリーンショット)

5. もう少し待ったほうがいい

今夜外に出てZTF彗星の観測に挑戦することは可能だが、私のおすすめは2023年2月5日の日没後1時間ほどまで待つことだ。まだ完全に消えていることも、特別明るく輝いているだけもないが、その頃は明るい星、カペラの近くにいるからだ。

カペラは東の夜空に見えるぎょしゃ座の最も明るい星だ。そこそこ高性能な10 x 50の望遠鏡を持ち、東の空を天頂に向かって(月を超えて)カペラを探そう。必要なら星座・天体観測アプリを使ってカペラを見つけるとよい。

月がうるさいほど明るいので理想的な観測条件ではないが、少なくとも暗い空を探す必要はないということでもある。

2月10~12日頃になってもまだ輝いているだろうから、ZTF彗星を火星のすぐ近くで見ることができるだろう。10×50の双眼鏡を火星に向け、少し左に動かせば見えるはずだ。

いま見られる「緑のZTF彗星」にまつわる不都合な真実

いま見られる「緑のZTF彗星」にまつわる不都合な真実© Forbes JAPAN 提供

ZTF彗星と火星(2023年2月11日、STELLARIUMのスクリーンショット)

一連の不都合な真実は、都合の良い場所で簡単に見える非常に明るい彗星は見たいが、かすかでぼんやりしたしみのようなものを見るために忍耐強く待つつもりのない多くのにわか天文家たちを思いとどまらせることだろう。

しかし、もしあなたがオールトの雲(地球と太陽の約10万倍の距離)からの訪問者をひと目見るために必要な忍耐を備えた1%の人なら、タイミングは良い。2023年2月2日まで、ZTF彗星C/2022 E3は、地球から約4200万キロメートルの位置を通過するまで明るくなっていくはずだ。ただし私のアドバイスは、カペラや火星との接近遭遇まで待つことだ。

澄み切った空と大きな瞳に願いを込めて。

forbes.com 原文

Pocket
LINEで送る